第52話 【解決編】 到着8日目・朝その5
コンジ先生が話し出しました。
「いいかい? もう一度繰り返すことになるが、シープさんが『右翼の塔』で襲われた時、それを一番最初に発見したのは……、メッシュさんでしたね?」
「ええ……。人狼がそれはもうすごい勢いであっし目掛けて襲ってきましたんでさ……。」
メッシュさんがその時のことを思い出しながら、答えた。
「そうでしたね。あの時、オレとジェニー警視、メッシュさんは直前まで見回りを行っていました。そして、朝になったので解散した直後、メッシュさんの悲鳴が聞こえたのです。」
「ああ。キノノウくんの言うとおりだな。」
「そして、『右翼の塔』の1階扉から出てきた人狼が廊下でメッシュさんと鉢合わせし、オレとジェニー警視は階段の間から1階へ降りたときに、人狼と遭遇しています。」
「そうだ。私が散弾銃を撃ったが外してしまったんだ。」
「オレはメッシュさんのもとへ駆けつけましたが、ジェニー警視はその後も人狼を追いかけましたね?」
「そうだ。玄関ホールから『左翼の塔』へ抜けていった人狼をすぐに追いかけたよ。」
ジェニー警視もあのときの様子を思い出しながら答えた。
「そうですね。で、オレの方は、『右翼の塔』側の階段を下りてきたシュジイ医師にメッシュさんをまかせて、ジェニー警視に合流した。いっぽう、ジェニー警視は『左翼の塔』側の階段から下りてきたビジューさんを確認しましたね?」
「ああ。そのとおりだ。だが、そのビジューさんが人狼が化けた姿だったんだろう?」
「はい。しかし、今はそこは置いておきましょう。その後、階段を下りてきたのは、スエノさん、ジニアスさんでした。」
「そうですわ。私とジニアスが銃声を聞いて、一緒に部屋から出たところで、ビジューさんが階段を下りていく後ろ姿を見ましたわ。」
「はい。……ですね? で、その後、『左翼の塔』1階をくまなく探しましたが、そのときに、人狼の化けたビジューさんが姿を消した。」
ゴクリ……。
誰かが唾を飲み込んだ音が聞こえた。
それくらい、みんな、コンジ先生の話に聞き入っていたのだ。
「キノノウ様。そのことはあのときにキノノウ様が明らかになされたのではないですか?」
「早まらないでいただけますか? 人狼がビジューさんに化けていた……というのは確定事項です。ゆえに……、人狼が化けたビジューさんと同時刻に姿を見せていた人物は人狼たり得ないということですよ? 単純なことです。」
コンジ先生のさらりとした言い分に、誰もがハッとした表情になった。
たしかに言われてみれば単純明快……。
人狼と同時に姿を見せていた人物は人狼ではない。
かんたんな理屈と言えます。
「すると……?」
「はい。あの時、生きていた人物で言うと……。メッシュさん、シュジイ医師、ジェニー警視、スエノさん、ジニアスさん、そして、オレもだが、人狼ではないと言うことだ。
そして、アレクサンダー神父は『左翼の塔』の中からは出られなかったので、除外。アネノさん、ママハッハさんは同じ部屋に閉じこもっていたため否定される。ついでに言えば、ママハッハさんの部屋の『左翼の塔』側の扉からなら、神父も外に出られたが、他ならぬママハッハさんたちが部屋の中にいたため、そこを通り抜けることは不可能なので、これも否定される……。」
「……、他には……、えっと……。」
「ジョシュア……、君だけしかいないのだよ!?」
「そんな……!? ちょ……、ちょっと待ってくださいよ! アネノさんやママハッハさんの可能性もあるのじゃあありませんか!?」
そう反論したジョシュアの表情は青ざめている……。
「加えて言うとだ。パパデスさん、イーロウさん……ジジョーノさんもだが、この事件の際、人狼はなぜ、ロープ銃を張ってスエノさんの部屋から侵入したのか?」
「え……? キノノウくん。それはシープさんが『右翼の塔』側3階を見張っていたからだろう?」
「そうですね。じゃあ、こう聞き直しましょう。なぜ、人狼はシープさんが見張っていることを知っていたのでしょうか?」
「「あっ……!?」」
「あの夜、シープさんとジョシュアに見張りを頼んだのはオレだ。これは頼んだオレとジョシュア、シープさんしか知らなかったのだよ!」
「そうでしたのね!? 父が殺されたときの嫌疑はジニアス、メッシュ、アネノ、そして母、あとは死んだシープ、ジョシュアさん……でしたよね?」
「そうです。そして、その中で、見張りのことを知っていたのは、シープさんとジョシュアだけなのです!」
「つまり、パパデスさん殺害と、シープさん殺害をどちらも行い得たのは……、ジョシュア。君だけなんだよ。」
「……そ……、そんな……。」
「ジョシュアさんが人狼……なのね?」
「ジョシュアくん……。君だったのか……。」
「まさか、最初からずっとジョシュア様が、人狼だったなんて……。」
全員、衝撃を受けた様子でした。
「人狼がビジューさんを先に襲ったのは、これは推測の域を出ないが、おそらくパパデスさんの深層心理からだろうな。彼は美術品に執着していた。そして、とにかく、パパデスさんは『怠惰』であったのだろう。何もしなくてもいいほどの大金を得た今、美術品を愛でてただ過ごしたいと思っても不思議じゃあない。もっと美術品を提供するよう、ビジューさんに催促しに行くことくらいはしただろうがな……。」
「なるほど。ただ美術品とともに無為に過ごしたい……、それはたしかに『怠惰』だな。」
「シープさんはスエノさんを怪しんでいたから、そのことで『右翼の塔』の地下室を調べに行ったのだろう……。そこで、ビジューさんの記憶を得た人狼が地下室の絵画……『モナリザの最後の晩餐』を見に行ったのと運悪く、鉢合わせしたんだろうね。」
「そうか……。ビジューさんも『強欲』と呼べるのかもしれないな。」
「そうですね。次の日の夜のアネノさん、ママハッハさんが殺された動機は……。」
「……ジジョーノ姉さんの『嫉妬』……ですわね? ジジョーノは姉に嫉妬していたのよ。不公平に扱う父も母も嫌いだったのだわ。」
「そうだな……。」
「シュジイ医師が殺された動機はなんだい?」
「ああ。地下の遺体安置所で、ビジューさんの遺体を発見されるのを阻止したかった……ということもあるだろうが、おそらくは殺されているであろうアレクサンダー神父の『憤怒』だろうな。彼は、世の中の異教徒に怒りを覚えていた節がある。特に科学や医学に対して……な。全ては神の思し召しなのだと考えていたのだろう。」
「それで、医師のシュジイを……。」
「そうでしょうね……。」
「ちょっと待って! じゃあ、私のジニアスは!? なぜ、ジニアスが襲われなきゃならなかったの!? ジョシュアさん! このメス狼め! なぜ!? どうして!? ジニアスを襲ったのよ!?」
「……。」
ジョシュアは黙っている。
「まあまあ。落ち着いて。スエノさん。おそらくは、まだまだ自分の正体はバレやしないと『傲慢』になっていたのでしょう。二人同時でも構わないと傲慢になっていたようだ。だが、ジニアスさんを仕留めきれず逃してしまった……。」
「そんな……!? ああ……。ジニアス……。」
スエノさんはその場にへたり込んでしまった。
「……ということで、証明終わりだ。」
コンジ先生が、少し物哀しそうに言葉を締めくくったのでした-。
恐ろしい連続殺人のあった館と思えないくらい、今は、陽の光に照らされ、キラキラと煌く『或雪山山荘』の玄関ホールで、この8日間の惨劇は幕を閉じるのでした-。
~続く~
※名探偵「黄金探偵」コンジの第二作目にあたる、
『化け物殺人事件 〜フランケンシュタインシュタインの化け物はプロメテウスに火を与えられたのか?〜』をエピローグ終了と同時に公開する予定です。
そちらもよろしくお願いします(*´∀`*)b
あっちゅまん
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