第51話 【解決編】 到着8日目・朝その4


 「キノノウ様……。私が人狼だったのではないとの明快な推理、さすがですわ……。でも、その人狼がどうやって、お父様を殺したというのですか?」


 「そうですぜ。イーロウのだんなを殺ったヤツが、シープやジョシュアさんの監視していた目をかいくぐって、パパデス様の部屋に忍び込むのは不可能だと思いますぜ……。」


 スエノさんとメッシュさんが、耐えきれずコンジ先生に疑問をぶつけた。


 そう……。


 あのときもみんなで確認したのだ。


 誰もが不可能状況になっている……と。




 「たしかにね……。だが、ジョシュアは人狼だったと仮定すれば、ジョシュアの見張りはなかったということだ。つまり、シープさんの監視の目をくぐり抜けることができれば、ジョシュアはもちろん、他の者にもパパデスさん殺害は可能だったと言えよう?」


 「そう言われるとそうなのだが……。キノノウくん。そのシープさんの監視が一番やっかいだったのではないか? だから、シープさん自身が人狼だったのではないかと疑っていたのだからな。」


 「そうですわね? その状況はシープが一番怪しく見えましたわ。それに、人狼がイーロウさんやジジョーノのいる『左翼の塔』側から、『右翼の塔』側の父の部屋に行くためには、シープさんの監視の目を抜けなければ行くことは不可能ですわ!?」


  「おっしゃるとおりですね。だが、しかし! 人狼はシープさんの監視を避けて、ジジョーノさんの部屋から一直線に、スエノさんの部屋へと侵入したのですよ。」



 「ええ!? 私の……、部屋? ……ですか?」


 「そうです。スエノさんの部屋に侵入した人狼は、そこからパパデスさんの部屋に向かい、すでに手に入れていたマスターキーでパパデスさんの扉を開け、パパデスさん殺害をやってのけたのです。まさに鮮やかな手口です。」


 「たしかに……、スエノさんの部屋からなら、シープさんの監視の目は階段の間の方向を見ていたので、死角になってしまっているな……。」


 「いや、だけど、どうやって……? ジジョーノお嬢様の部屋から、スエノお嬢様の部屋へ侵入したのですかい!?」


 「そうね……。先程キノノウ様は一直線に……とおっしゃいましたが、ジジョーノの部屋は『左翼の塔』3階、私の部屋は『右翼の塔』3階、その間はなんにもない空中なんですよ?」


 スエノさんがもっとも謎の部分に切り込んだ。




 「もちろん、そのときは人狼が渡る道ができていたのですよ。一直線に……ね。」


 「いやいや! そんな空中に道だなんて!?」


 「それは、紛失したロープ銃を使ったのですよ。」


 「ロープ銃だって!? たしかに、他のライフル銃などと一緒に武器庫から盗まれていたが……。それを使ったと言うのか!?」





 「ええ。そうです。盗み出したロープ銃を使い、ジジョーノさんの部屋の窓から、スエノさんの部屋の窓まで一直線に丈夫なワイヤーを張り、空中を渡ってスエノさんの部屋に窓から侵入したのです。


 その証拠に、スエノさんの部屋の窓ガラスが割られていました。そして、そのガラス片はスエノさんの部屋の中に飛び散っていた……。


 もし、窓ガラスが部屋の中から割られたのなら、ガラス片は窓の外に飛び散っていなければなりません。


 あのとき、スエノさんの部屋は何者かに荒らされていて、ひどい有様だった。だが、それは飛び散った窓ガラスの破片をごまかすためであったのです!


 ガラス片が部屋の中に飛び散っていたことが、窓ガラスが外から割られた疑いのない証拠なのです!」





 「そうでしたのね!? 窓ガラスの破片はたしかに部屋の中に散らばっていましたわ!」


 スエノさんが荒らされていた自分の部屋を思い出しながら、叫んだ。




 「そうだ。そうしてスエノさんの部屋に侵入した人狼は、部屋の中に散らばった窓ガラスの破片をカモフラージュするために、部屋の中を荒らしたのです。


 その後、シープさんの見張っている向きが階段の間の方を向いていたのを確認し、音を立てずに、パパデスさんの部屋に侵入し、彼をその手にかけたのです……。


 あの時、パパデスさんはシュジイ医師から眠り薬を処方されていた……。


 そのことが仇になり、パパデスさんはおそらく眠りから目覚めることなく、あの世へ旅立ったのでしょう。」




 そのコンジ先生の言葉を聞いた誰も喋ろうとしなかった。


 どうやって? ……という命題の謎は解けたかに思えた。


 だが、誰が? ……という謎は、まだ特定できてはいなかったのだから……。




 「コンジ先生……。さきほど、パパデスさんが眠り薬で眠っていたとおっしゃいましたよね?


 そして、人狼はマスターキーを管理人室から盗んでいたでしょう? 」


 「ああ。それがどうしたのだ?」


 「つまり、そのマスターキーを使って、『右翼の塔』に1階の扉から侵入し、『右翼の塔』からパパデスさんの部屋に入ることはできたのじゃあありませんか?」


 「それはそのとおりだな。」


 「じゃあ、そんなたいそうなトリックを使わなくても、あの時『左翼の塔』側にいた人か、『右翼の塔』側でも1階のメッシュさん……、さらに言えば、ジニアスさんにパパデスさんの部屋から地下室の鍵を持ってきてもらえば、スエノさんもあの日の夜の犯人=人狼であり得るのじゃあないですか!?」


 ジョシュアが反論をする。




 「うむ。たしかにジョシュアくんの言うとおりではあるな。 殺されたものとアレクサンダー神父を除き、あの時『左翼の塔』側にいた者……ママハッハさん、アネノさん、ジニアスさん、そして、そのジニアスさんの協力を得られればスエノさん、……で、メッシュさんか……。」


 「ちょっと! どうして私がまた疑われるのですか? 人狼は単独行動なんじゃあなかったですの!? それに、肝心のジニアスがなぜ襲われていないのか……。おかしいじゃあありませんか?」


 「そうですね。絶対的に嫌疑から外れたわけじゃあありませんが、この日の事件では、スエノさんは可能性が著しく低いと言えましょう。」


 「ほら!? ジョシュアさん? もっと考えて反論なさいね? 人狼はアナタなんでしょ!」


 「違いますってば! コンジ先生はなにかの勘違いをされているのですよ! それに、ほら! またメッシュさんが嫌疑に入っているのですよ? 怪しくないですか!?」


 「そ……! そんなことありませんぜ!? あっしじゃあないですよ!?」






 誰もが自分以外の者に嫌疑をなすりつけようとするのは、醜くもあった。



 「まあまあ。落ち着いてください。たしかに、この日の事件だけじゃあ、まだ絞りきれません……。ですが、次の日の……、シープさんが明け方近く殺され、そして、ビジューさんが行方不明になった事件で人狼はボロを出したのです! 」


 コンジ先生がズバッと言い放った。


 まるで、ギリシャ彫刻のような美しいポーズを決めて……。




 「おお! キノノウくん。しかし、あれはビジューさんに化けて成り代わり、やり過ごした人狼がまんまと逃げおおせたという推理だっただろう? 『右翼の塔』側の階段の間の地下の部屋の遺体安置室でビジューさんも後からその死体が発見されたし……。先にビジューさんを殺した人狼が、その後、出くわしたシープさんを襲撃し、なおかつ、逃げる際、メッシュさんをも怪我をさせた……、その後、早変わりの成り代わりでビジューさんに成りすまし、我々の目を欺き、逃げおおせたのだ……。そういうことだったんじゃあないか?」


 ジェニー警視が、以前にコンジ先生が披露した鮮やかな推理をいま一度、説明した。





 「そうでしたね……。しかし……! あの時、気づかなかったある事実が……。真犯人たる人狼を特定し得ることとなったのです! 」


 コンジ先生がまたしても、奇妙なポーズで斜に構え、こちらに向かって指を差してその姿勢で止まってみせた。


 ジョジョ立ちのように……。





 雪に反射する日光の一面のまぶしい銀世界が広がる中、コンジ先生は悲しげな顔をしていたのでした-。





 ~続く~




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