第34話 到着5日目・昼その4
シープさんが残した日誌の内容から、シープさんが誰かを疑って行動したことは明白のようです。
それはいったい誰なのか?
すると、ここで、コンジ先生が語りだしました。
「シープさんが誰を怪しんでいたかは置いておくとして、彼が殺される直前に、『右翼の塔』の地下室へ向かったことは間違いないでしょうね?」
そのコンジ先生の言うことに反論する者は誰もいませんでした。
そして、コンジ先生が少し、息を吐き、再び話し出します。
「シープさんが人狼に襲われたのは『右翼の塔』の地下室、そして、人狼は『右翼の塔』の1階の扉から、階段の間のほうへ逃げてきました。そこで、メッシュさんと鉢合わせし、メッシュさんは襲われ、怪我をしたのでしょう。そして、私とジェニー警視、メッシュさんはその直前まで一緒に、夜回りをしていたので、アリバイがああります。もちろん襲われたメッシュさんと人狼が入れ替わったという可能性もこれにより否定されます。」
「うむ。そうだな。キノノウくんとメッシュさんと私は最後の見回りを終えるまで、一緒にいたぞ。」
ジェニー警視もそれに同意し、証言をする。
「その後、僕とジェニー警視は、メッシュさんの叫び声を聞き、『右翼の塔』側の階段の間の2階から、1階へ下りました。そこで、『右翼の塔』のほうから廊下を走ってくる人狼を目撃しました。」
「ああ、そのとおり。私は人狼に向けてライフル銃を撃ったが、すばしこく躱されてしまった。」
「そうですね。で、その後、人狼は1階の玄関の間の扉を開け、『左翼の塔』側への扉の方へ駆け抜けていきましたよね?」
「ああ。それは見ていた。だから、キノノウくんと一緒にヤツを追いかけたのだ。」
「そう……。玄関の扉を開けて外へ出たり、玄関の間の窓を開けて外へ逃げたりはしなかった。」
「それは私も一緒に追いかけたのだ。間違いない。ヤツは『左翼の塔』側の扉を開けて、向こうへ逃げたのだ。」
ここで、コンジ先生が少しだまり、上を見上げた。
また、みんなを見回しながら、話し出す。
「そう。ですが、このとき、『左翼の塔』側へ続く玄関の間の扉は人狼の手によって閉められました。」
「ああ。キノノウくん。それはそうだが、ほんの一瞬だぞ? 2,3秒かそのくらいじゃあないか?」
「ええ。そうですね。そして、僕たちはすぐに、『左翼の塔』側1階の階段の間に出ましたね?」
「うむ。そのとおり。すると、人狼のヤツはいなくなっていたのですよ!? だから不思議なんじゃあないですか!?」
「そうですね。『左翼の塔』側の階段の間の2階から、ビジューさん、ジニアスさん、スエノさんが下りてらっしゃいました。」
「あ! 私は『右翼の塔』側で、銃声が聞こえたものですから、急いで階段を下りて、メッシュさんが怪我をしているのを発見しました!」
シュジイ医師がそこで声を挟んだ。
「ええ。シュジイ医師の声が聞こえましたよね。ジェニー警視?」
「ああ。そうだったな。メッシュさんを診てもらっていましたね。もちろん人狼は、この時点で『右翼の塔』に戻る手段はあり得ませんので、シュジイ医師は完全に嫌疑から外れます。」
「そうか……!? そういえばそうなるな。」
「そして、我々はその後、『左翼の塔』側1階をくまなくみんなで探しましたが、人狼の姿はみつけられませんでした……。」
ゴクリ……
つばを飲み込む音がこんなに大きく聞こえるだなんて……。
「うむ。キノノウくん。それはもうみながわかってることじゃ! 『左翼の塔』の扉を開けて、塔へ逃げたのではないか!?」
ジェニー警視がたまらず質問をした。
「たしかに……。その可能性はゼロとは申しませんが、ジェニー警視。考えてみてください。あのとき、僕たちが人狼の姿を見失ったのは、数秒のことでしょう?」
「んん……!? ああ、そうだな。玄関の間の『左翼の塔』側の扉が閉められ、私たちがそれを開けた時にはもう、ヤツは姿が見えなかったのだからな?」
「そうでしたよね? あのとき、『左翼の塔』の扉が閉まったような音は僕は聞こえませんでしたよ。」
「ええ……!? でも、それは何らかの聞き逃しとかないのかい?」
「いや、それに、あの短時間で『左翼の塔』の鍵を開け、再び閉じて『左翼の塔』の内部に入るのは、さすがの人狼でも不可能でしょう!」
コンジ先生のその圧倒的な迫力の声に、誰も反論する者はなく、ただ静かに聞き入っていました。
「と、なると、どういうことですの?」
アネノさんがしびれを切らしたのか、コンジ先生に疑問をまっすぐにぶつけた。
「最初から、人狼は姿を消していなかったのです! 僕たちの目の前にずっといたのです!」
コンジ先生がそう言った時、一同は一瞬、何を言っているんだと、ポカンとしてしまいました。
だって、人狼が姿を消したから、どこへ逃げたのかを話し合っていたのに、その人狼が目の前にいただなんて……?
何を言っているのかわからないと思ってしまいました。
「アレクサンダー神父は『左翼の塔』の鍵がかかっていたため、外に出られませんでした。」
「まあ、それはモチロン、その通りデース!」
神父も同意する。
「ママハッハさん、アネノさん、ジョシュアは部屋にいましたが、それぞれ、シュジイ医師や、我々、または、ビジューさん、ジニアスさん、スエノさんたちの目をすり抜けて自室に戻ることは不可能でしょう。人狼の動きはたしかに速かったですが、目で追えないほどの動きではありませんでしたからね?」
「そうだな。キノノウくん。……、で、どうなんだ? その人狼が目の前にいたというのは!?」
コンジ先生がここで一呼吸をつきました。
「ジニアスさん、スエノさん、あなた方は一緒にビジューさんの後ろから下りてきましたが、なぜ一緒にいらっしゃったんですか?」
「え……? いや。それは……、そのぉ……。」
「まあ!? キノノウ様ったら……、何を言わせたいのですか……!?」
ああ……。コンジ先生、謎解きしか興味ないから、デリケートな恋愛問題とか察することが出来ないんだろうなぁ……(遠い目)。
「いや、まあ答えなくても推理でわかりますがね? スエノさんもジニアスさんもガウンを羽織っただけの姿でした。ビジューさんもですが。まあ、お二人は昨夜、来られた位置から考えて、ジニアスさんの部屋でご一緒に過ごされたのでしょう? まあ、そこはどうでもいいのですが、とにかく一緒に来られたというのが重要なのです。」
「は……、はい……。」
「ま……、まあ、一緒にいましたとも! それでいいですか!?」
「よろしい。で、お二人はビジューさんが『左翼の塔』側の階段の2階からガウン姿で下りていくところを見たんですよね?」
「はい。それは間違いないです。その後、すぐに私たちも1階に下りましたから!」
「そうです。その後は、キノノウさん、ジェニー警視! あなた方とお会いしたからわかっているでしょう?」
「大変よくできました!」
みんな、またポカンとしてしまい、コンジ先生の顔を見ていた。
「いいですか? 僕とジェニー警視が『左翼の塔』側の階段の間に入った際、人狼はすでにいませんでした。そして、その後の『左翼の塔』1階の捜索でも見つかりませんでした。」
「それはもうわかっておるのだよ! キノノウくん!」
「いや、大事なところなので再確認しました。大事なことは2回言う……。高校の時の教師が言ってませんでしたか? そう、僕とジェニー警視が人狼を追いかけて、見失った後に、最初に出会った人物……、それはビジューさんなのです!」
「え!? そりゃそうなんじゃあないのか?」
「それはもうわかってること ですけど?」
「いや、キノノウくん。人狼の話はどこに行ったのかね?」
「キノノウ様! 『黄金探偵』の名が傷つきますわよ!」
みんながざわついています。
「だから……。人狼はビジューさんに化けていたと申し上げているのです!」
なんですって……!?
人狼がビジューさんに化けて、みんなの目の前に堂々といたと言うのですか……?
やけに、雪の風巻く音が耳から脳の中までへばりつき、寒く、寒く、感じられるのでしたー。
~続く~
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