第27話 到着4日目・昼その4


 「とりあえず、シュジイ医師には、パパデスさんとイーロウさんの検死をしてもらいましょう。さきほどは、パパデスさんだけが犠牲になったことがわかった段階でしたので、容疑の関係から検死をするのを控えてもらいましたが、嫌疑が不明になった今は、情報がほしいですね。」


 コンジ先生が改めてシュジイ医師に検死をお願いした。


 「むぅ……。なんだか気分が悪いが医者の務めは果たしましょう。」


 「まあまあ。シュジイ医師も。あの状況下では仕方がなかったんですよ。機嫌直してください。」


 私もシュジイ医師にお願いする。





 「じゃあ、私がシュジイ医師について行こう。ま、何かするとは思えないがね。」


 「もちろんですよ! 私は犯人じゃあないんですから!」



 そんなことを言いながら、ジェニー警視とシュジイ医師が部屋から出ていった。





 残ったみんなは、静かに黙り込んでしまった。


 「ところで、昨夜の状況を整理しておきましょうか?」


 「キノノウ様。そうですね。それをお願いするわ。名探偵さん。あなたの意見を聞きたいわ。」


 「ええ。ママハッハさん。」




 「まず、昨夜のパパデスさん、イーロウさん殺害の時刻は今はシュジイ医師の確認を待ってからにはなりますが、いずれにしても深夜の時間帯なのは間違いないでしょう。そして、昨夜、僕はシープさんとジョシュアに夜の間、見張りをお願いしていました。」


 「ええ。それは先程聞きましたねぇ。」


 ビジューさんが頷く。





 「よって、部屋の関係上、シュジイ医師とパパデスさんはシープさんの証言でシープさんの部屋の前は通っておらず、また誰もここを通っていない。また、僕、キノノウとジェニー警視、ビジューさんはジョシュアの証言で、ジョシュアの部屋の前は通っておらず、また誰もここを通っていない……ということは明白になっています。」


 「そ、それって、それ以外の僕やスエノさん、あとは、メッシュさん、アレクサンダー神父、それにママハッハさん、アネノさん……、最後に行方不明のジジョーノさんは、逆に言えば、アリバイがないということですか?」


 ジニアスさんが声をあげた。




 「いえ。先程申し上げたように、アレクサンダー神父は昨日も『左翼の塔』に入っていて、朝になってから我々が迎えに行って、『左翼の塔』の1階扉に鍵がかかっていたことは確認しております。よって、嫌疑からは今回も外していいでしょう。それに、スエノさんもですね。」


 「そ……、そうですか……。ならば、僕と、メッシュさん、ママハッハさん、アネノさんの4人ということですか……?」


 「まあ、今のところ、そうなりますね。」



 「そ……、そんな!? 僕じゃあないですよ!」


 「わたくしやアネノがそんなことするはずありませんわ。ならば、ジニアスさんかメッシュに人狼が化けてるんじゃあありませんこと?」


 「そうね! 母上の言うとおりですわ! 私や母上ならば、父上を殺害するなんてことありえませんもの!」




 ママハッハさんやアネノさんはそう言ったけれど、人狼の殺害動機は『7つの大罪』に絡めた本能から来るもの……。


 表立ってそういう動機はなくても深層心理はわからないですから、動機がないとは言えないのです。



 「し……しかし、あっしが言うのもおこがましいお話ですが、パパデス様のお部屋に侵入できた人はシュジイ医師しかありえない以上、やはりシュジイ医師が人狼なのではないですか?」


 「そ……。そうだよ! それに僕は昨夜の事件はその、アレだとしても、その前のエラリーンさんやカンさんが殺害された時はスエノさんと一緒だったんだ。僕が人狼だったなら、スエノさんは無事じゃあ済まないよ!?」


 メッシュさん、ジニアスさんも反論する。






 「まあ、シュジイ医師についてが怪しいと言うのなら、それと同じくらいみなさん嫌疑は変わらないということにはなりますね。」


 「ま、そうか。私もジェニー警視も、キノノウくんでさえ、シープさんやジョシュアさんの監視の目をくぐり抜けられたとなりますからなぁ……。」


 ビジューさんは意外と冷静に物事を捉えていらっしゃるようです。




 「ビジュー様のおっしゃるとおりですね。たしかに私は夜通し『右翼の塔』側の3階の階段の間を見張っておりましたが、そもそも人狼が見張りの眼をすり抜けられるなら、アリバイはみなさん一様にないのと同じでございますから。」


 シープさんもそれには同意する。


 もちろん、私もずっと見張ってはいましたが、絶対間違いないのか? ……と言われると、だんだん自信がなくなってきましたよ。


 あり得ないことが起こっているのですから。




 「そうですね。人狼は単独犯であることは間違いないでしょう。人狼は群れないと聞いています。それに複数であれば、もっと簡単に我々全員をその手にかけていることでしょう。この人狼は孤独である! それは疑いないことです。」


 「そうデスネ。ジンロウは孤独の存在デース。そして、一度にそんなにも多くは食べられマセン! 全員一気に殺られることはないデショウ! そのことが複数いないことを証明しているノデス!」


 神父さんも力強く同意した。




 「ということで、パパデスさんとイーロウさんを殺害した人狼は1匹。つまり、部屋の出入りの問題を解かなければ、みなさん、容疑は同じという段階を出ないことになりますね。」


 「理解しましたわ。ジジョーノの行方もわからないままですが、あの子が人狼で、逃げたという可能性もあるのですわねぇ?」



 ママハッハさんはあくまでもこの場にいないものが犯人であるとしたいようだ。


 でも、ジジョーノさんも自分の娘でしょうに……。


 なんだかいびつな家族に感じるのは私だけかな?





 「スエノさん! ジニアスさん! ちょっと付き合ってもらっていいですか?」


 コンジ先生が二人に声をかけた。



 「「え……!?」」




 二人はお互いの顔を見合わせて、ポッと頬を少し赤らめて、目をそらした。


 いやいや、そういう意味の『付き合ってくれ』じゃあないでしょ!?


 このリア充め!


 爆ぜろ!




 「早く一緒に来てください。スエノさんの部屋の荒らされていたという状況を確認したい。」


 コンジ先生は一切そういうことには気づいた様子もなく、部屋の扉のほうへ歩いていく。



 「「あ……、はい……。」」


 ふたりともなんだか気の抜けたような返事をして、コンジ先生について行く。


 私もそんな二人を追いかけていいく。




 2階のダイニングルームを出て、『右翼の塔』側の階段から、3階へ上がり、スエノさんの部屋へ向かった。


 スエノさんの部屋の扉を開けて入るコンジ先生。


 続いて私たちも入りました。




 「うむ。これはひどい荒らされようだな……。」



 洋服ダンスから服が出されていて引きちぎられ、机の引き出しはすべて開け放たれ、引きちぎられた服と中身が床にぶちまけられている。


 窓ガラスも割られていて、そのガラスの破片が床に飛び散っていて、その上に何か血塗られたようなベッドのシーツがビリビリに引きちぎられ床の上に垂れ下がっていました。


 そして、割られた窓から雪が入ってきていて、窓もガタガタと音を立てているのだった。




 「先ほど、私とジニアス……、さんが部屋に来たら、こんな有様になっていました。」


 「ふむ。何かなくなったものはないですか?」


 「えぇ……っと、特に部屋を見た感じではなさそうですが、細かく調べれば何かわかるかもしれませんが、いかんせん、部屋がこんな状況でしたので……。」


 「なるほど。わかりました、ジニアスさん、あの窓をなんとか塞いで、部屋の片付けをお二人でしてもらえませんか? そして、何か気がついたことがあれば、僕に教えてほしいのです。」


 「わかりました。スエノ……、さん! 一緒に片付けましょう!」


 「ええ! わかりました!」




 んんーーーっ!


 ちょちちょい二人がお互いを呼捨てにしそうになって、さんづけで言い直すのって、なんだかイラッとするわー!


 まあ、いいですけどね!




 「あ! ジェニー警視とシュジイ医師だ!」


 私は、ふと見たところ、廊下から顔を出したジェニー警視とシュジイ医師を見つけた。




 「キノノウくん。ジョシュアくんもいたのか。今、シュジイ医師の検死が終わったところだよ。」


 「イーロウさんのほうも終わりましたか?」


 「ああ。」


 「それで、死亡推定時刻と死因はどうでしたか?」




 「うむ。死因はまあ、今までと同様、ふたりとも首を噛まれてからの失血死。まあ、パパデス様のほうはその首自体が引きちぎられていたのでな。あくまでも推測じゃが。」


 「まあ、おそらく間違いはないでしょうね。」


 「死亡推定時刻は、イーロウさんのほうは昨夜1時から3時の間じゃろう。パパデス様のほうは……、深夜4時ごろから明け方6時くらまでの間じゃな。」



 「つまりは、先にイーロウさんが殺され、その後、パパデスさんが殺されたということになるな。」



 と、いうことは……。


 シープさんの見張りをかいくぐって、パパデスさんの部屋に人狼は忍び込んだということになりますね……。


 いったい、どうやって?


 私の頭ではまったく想像さえつかないのでしたー。





 ~続く~




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