第20話 到着3日目・昼その3
私たちはダイニングルームに集まっていた。
メッシュさんが簡単な朝食を準備してくれたのだ。
モンティクリストは定番のカナダの朝食メニューです。
パンの片面にバターとマスタードを塗り、チーズと半分にしたハム2枚分をのせて2枚を合わせ、たまご、牛乳、粉チーズを合わせて作ったたまご液に、パンの両面と耳の部分もひたひたに浸したものを、フライパンに入れ、弱火で焼けば完成です。
焦がさないように丁寧に焼かれたモンティクリストは、メッシュさんの料理の腕ですね。
まさに、ふわっ!とろっ!
最高です! メッシュさん、グッジョブです!!
それに、カナダの国民食とも言えるフライドポテトの上にチーズやグレイビーソースをかけたプーティンが出ました。
ポテトをレンジで焼き、塩コショウをまぶしピザチーズを散らし、オーブンに入れて余熱でとろけさせたものに、上からソースをかけ、サワークリームを乗せてできあがり。
ベーコンピッツをかけるとよりおいしく感じました。
ポテトは揚げても美味しいですね。
これはいくらでも食べられますよ……。モグモグ……。
それにしてもこんな状況でも料理に手を抜かないメッシュさんの料理人としての気概が感じられますね。
私もそれに応えないといけませんから、たくさん食べましたよ。
ええ。もちろん、メッシュさんの厚意を無にしないようにですよ? そりゃみなさん、なかなか手が進まないから、私も仕方なく……ね。
****
「……というわけで、この館にその人狼という化け物が侵入した可能性が非常に高いと思われます。なにかご質問は?」
ジェニー警視がパパデスさんの意向を受け、人狼についての情報をみなさんに説明をしたのです。
人狼のことを知らされていなかったのは、どうやら宿泊客のビジューさん、ジニアスさん、イーロウさんのお三方だけだったみたいです。
アイティさんやエラリーンさんも知らされてはいなかったのですが、もうお亡くなりになっているので……。
「ふざけるなよ!? そんな大事なことを俺たちには伏せていたなんて……。それを知っていたら……。エラリーンは死なずに済んだかもしれないじゃあないか!?」
イーロウさんが猛々しく文句を言った。
それにはジニアスさんもビジューさんも頷いて賛同の意を示している。
そりゃそうですよねぇ。もしかしたら警戒できたかもしれませんものね。
ふと隣のコンジ先生を見ると、やはり苦々しい顔をしてらっしゃいました。
コンジ先生は最初からみなさんに人狼の件を明かすべきだとおっしゃってましたからね……。
「それは……。本当にすまない……。君にはなんと言っていいか……。」
パパデスさんも口止めをした責任を感じているのか、口が重い。
「みなさま! 本当に申し訳ないですわ! イーロウ様がお気を悪くされるのは当然でございます! でも……まあ、イーロウ様が襲われなくて良かったですわ。エラリーン様には悪いですが、本当に大切な方が被害に遭われなくて不幸中の幸いとも言えますわね?」
そう言ったのはアネノさんです。心なしかアネノさんはイーロウさんを見ながら、微笑んだようにも見えたのは気の所為でしょうか……。
ジジョーノさんが一瞬だけアネノさんのほうを鋭い目をして見ましたが、すぐにとりつくろうように笑みを浮かべていました。
みなさんもこの発言にはさすがにひくついていたかと思います。
だって、少なくとも管理人のカンさんやエラリーンさんが犠牲になっているのです。それを幸いと思えるはずがありませんからね。
「まあまあ。この娘ったら。すみませんねぇ。みなさま。しかし、わたくしからも一言申し上げるとすれば、夜中に部屋の扉を開けるだなんて不注意をしてしまった彼女にも非があると申しているのですよ。ねえ? アネノ。」
「そ……そうですわ。お母さま!」
「待ってください! 夜中に彼女の部屋の扉を開けたのがエラリーンさんだとは断言できませんよ?」
ここでコンジ先生が指摘をしたのだ。
「えっと、どういうことなんだ? キノノウくん。」
ジェニー警視も当然のように疑問に思ったらしい。
「まず、夜中ということだが、エラリーンさんとカンさんはどちらも深夜のいつ殺されたのか? またその順番はどうなんだろう? ドクターの見解を聞きたい。」
「はい。ふたりとも深夜2時から4時の間と見受けられますな。遺体は動かされた形跡がありませんでした。死斑の状態からおそらく間違いないでしょう。そして、どちらが早かったかというのは断定できませんな。まず、二人の状態が違いすぎる。カンのヤツは低温の中にずっとさらされていたし、エラリーンさんは……温かい部屋の中でございましたからな。」
「ふむ。なるほど。では、エラリーンさんが先に襲われたのならば、ママハッハさんのおっしゃるとおり、エラリーンさんが犯人を自ら招き入れた可能性もありますね。しかしながら、カンさんが先に襲われたとするならば、犯人がエラリーンさんの部屋を開けた可能性も出てくるね。」
「いったいどういうことですの?」
ママハッハさんもアネノさんもコンジ先生が何を言わんとしているのか、皆目わからないって顔をされていました。
「キノノウくん。それ言っちゃうの?」
ジェニー警視が仕方ないなぁという表情をして頭を掻いた。
「マスターキーが無くなっているんですよ……。」
「え!? マスターキー?」
「それってどういうことですか?」
ジニアスさんとスエノさんがほぼ同時に叫んだ。
「あれは厳重に保管されていたんじゃあないか? シープ。」
「ええ。その通りです。……ですが、その保管を任されていたカンが犠牲になってしまったのです。」
シープさんがパパデスさんに答える。
「いや! カンのヤツは責任感が強い! たとえ強盗に脅されても保管場所の開け方を口を割るはずがねぇ! あっしはカンのヤツと15年一緒に働いてきたんでさぁ。」
メッシュさんが声高に叫ぶ。
その悲痛な声にはまだカンさんの死にショックを受けていることがヒシヒシと感じられる。
しかし、コンジ先生は黙ってそれを聞きながら、辛そうな顔をしていた。
「ああ! そういうことなんですか!? カンに化けた人狼がその鍵の在処を知ってしまったので、持ち去ったと!?」
ジジョーノさんがそこに気がついたらしい。
「その通りだよ。キノノウくんと私が確認した。確かに保管庫にはマスターキーがあったと思われる場所にマスターキーは無かったんだ。」
「そうです。この犯人たる人狼は犠牲者の血をすすることでその人の記憶も引き出せるのです。つまり、カンさんを襲ったことでカンさんの記憶も盗まれたと言っていいでしょう。」
「ふむふむ。つまり、この『或雪山山荘』の館には各部屋にひとつずつ鍵がある以外に、共通で使えるマスターキーなるものが存在していたと。で、それは今は保管場所に見当たらない……。そういうわけですな?」
ビジューさんがまとめてくれたみたいですね。
「マスターキーが奪われた今、ワレワレはこの山荘のどこにも逃げ場はなくなった……というわけデスネ?」
「部屋に閉じこもっていればいいという状況ではなくなった……というわけだな。」
アレクサンダー神父の言うことにコンジ先生もうなずく。
「でも……。裏口が開いていたんでしょう? 人狼は裏口から逃げていったのではないのですか?」
スエノさんがそう小さい声でささやくように言った。
それには誰も答えなかった。
そう、誰もがそう信じたいと思っているのだ。
しかし、それと同時にこの中の誰かに化けているのではないかと疑心暗鬼にもなっているのだから……。
まだ外の世界は吹雪が吠え狂う一面の雪の世界。
そして、この辺りの天気は、7日吹雪くと1日晴れる特殊な天気なのです。
まだ吹雪が止むまで、今日を入れて5日はかかるのだー。
~続く~
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