第1日目

第1話 到着1日目・昼その1



 吹雪が周囲を取り囲むかのように吹雪いているが、この辺りは少し止んでいるようだった。


 


 そして、大きな宮殿のような荘厳な館が目の前に立っていた。


 シンデレイラ家所有の山荘『或雪山山荘(あるゆきやまさんそう)』である。




 コの字型の建物で左右に塔がある。


 また、なぜかこの周辺はどれだけ吹雪になろうと、意外に風が吹かないとカンさんが説明してくれた。


 周辺は吹雪に荒れやすい特殊な地域なのに、なにかの気流にでも守られているのだろうか。







 「無事、着いたようだな。」


 コンジ先生もさすがに安心したような表情を見せる。


 「はい。では館の中へどうぞお入りくださいませ。」


 管理人・カンさんが促し、玄関の扉を開けた。






 「お客様をお連れしました!」


 カンさんがそう館の中に向かって大声で呼びかけた。






 「ふぅ。助かったな。さすがにこの寒さは耐え難いものがあったな。」


 「ですねぇ。コンジ先生。それにしてもなんと素晴らしい装飾なんですこと!」




 玄関を入ったすぐの空間には、超豪華な内装、装飾の施された豪華絢爛の大広間が広がっており、壁には有名な画家の絵画が飾ってあった。


 その素晴らしい光景に息を飲んでしまう。


 大きな柱時計が窓側中央に飾ってあり、ちょうど、12時の鐘を鳴らした―。




 「ジョシュア。君に絵画の何たるかが理解できるのか?」


 「あーら。コンジ先生こそ、絵画は心で見るものなんですよ? 頭で考えるものではないですからね。」


 「ふん。ここに飾っている絵画はある一人の画家の作品が集められているようだな。君にわかるのかい?」


 「え? この絵画って全部同じ画家の作品なんですか!?」




 入ってきた玄関の両隣の壁、さらにその壁に90度に接した二面の壁、つまり玄関の真向かいの大きな窓のある一面を除いた壁に絵画が等間隔に並べて飾られている。


 その数は全部で12枚。


 しかし、その作風はすべてがまるで違って見える。


 ある絵画はゴッホッホ風。


 ある絵画はマネモネ風。


 ある絵画はフェアリメール風といったように全部が違った作風に見えたのだ。





 「孤高の謎の画家、銀野閏風(ぎんの・うるうふう)の作品ですよ。さすがは、名探偵キノノウ・コンジ様。お見事な審美眼でございます。」


 奥の扉からそう言って入ってきた紳士が私たちに近づいてきた。


 この館『或雪山山荘』の関係者のようだ。




 「ああ。シープさん。お客様が到着されました。」


 カンさんがその紳士に声をかけた。


 「天候の悪い中、よくぞこの『或雪山山荘』にお越しくださいました。私はシンデレイラ家の秘書、シープ・カンペキンでございます。」


 紳士は威風堂々と毅然とした態度でそう述べ、丁寧にお辞儀をした。





 「やはり、銀野・閏風の作品か。」


 「ええ。キノノウ様。素晴らしい審美眼でございます。一人の画家がこれほどまでにあらゆる作風を描き分けられるとは、普通は思いませんでしょう。」


 「まさにそのとおりだ。その点こそが銀野閏風は世紀の天才画家足らしめているところだな。」


 「コンジ先生! 知ってたんですか?」


 「もちろん当然知ってたに決まってるだろう。」




 コンジ先生ってやっぱりなんだかんだすごいんですよね。


 でも、絵の素晴らしさを理解しているかどうかはわからないけど。


 知識量は疑う余地もないのです。


 しかし、絵に興味があるとは知らなかったな。




 謎にしか興味がないと思っていたけど……。



 「おーい。メッシュ! お客様の荷物運びを手伝うんだ!」


 そうシープさんが声をかけたほうを見ると、一人の男が立っていた。


 シープさんと一緒にものも言わずに入ってきた無愛想な男だった。




 「へい。」


 一言だけ発して、カンさんとそのメッシュと呼ばれた男が私たちの荷物を運んでくれる。


 「ああ、こいつは召使い兼料理人のメッシュ・ツーカイです。無愛想なヤツで申し訳ございません。しかし、こう見えてこの男の料理の腕は素晴らしいものがあるのでご容赦を。」


 すかさず、シープさんがフォローをする。




 へぇ。料理人なんだ。


 まあ、料理が美味しけりゃ、たしかに無愛想でも関係ないもんね。


 そんな私の心の中をすかさず読んだかのように、コンジ先生が私の方をじっと見てこう言った。






 「ジョシュア。まあ君にとっては、料理が美味しけりゃ、どんな人間だろうと良い人だろうね。」


 「まあ! コンジ先生ってば! 私が食いしん坊みたいじゃないですかぁ!!」


 「事実だろう?」




 そんな言い合いをしながら、私たちはカンさんとメッシュさんの後についていく。


 館の右翼の塔側の屋内エレベ-ターに乗り、2階で降りた。


 エレベータのすぐ前の部屋が、私、ジョシュアの部屋で、私の部屋からエレベーターに向って右隣の部屋がコンジ先生の部屋だ。




 コンジ先生の右隣の部屋が、ジェニー・ガーターさんという警察関係の方の部屋で、私の部屋の隣は、アイティ・キギョーカさんという事業主さんの部屋らしい。


 アイティさんの隣は美術商のビジュー・ツーショウさんという方の部屋という。


 ジェニーさんとビジューさんの部屋の奥が右翼の塔になっている。


  塔側から見ると、真ん中に廊下があり、両隣に部屋が6つ分のスペースがあるが、塔を背にした左側、建物の外側にあたる部分の塔寄りの部屋は3部屋で、ビジューさん、アイティさんの部屋に続き、そして、その隣の階段方面、つまりコの字の曲がり角部分にあたる階段スペース(トイレもここにある)寄りの部屋が私の部屋になる。





 私の部屋の真ん前がエレベータールームで、右翼の塔に向かって、エレベータールームの隣がコンジ先生の部屋、その隣、塔寄りの部屋がジェニーさんの部屋だ。


 どうも、2階部分に限っては、反対側の左翼の塔側の建物の造りはこちらの右翼の塔側と正反対の構造のようだ。


 後で教えてもらったのだが、左翼の塔側の部屋割りは、エレベータールーム前が、アレクサンダー・アンダルシアさんという神父さんで、その隣に2部屋分の広い部屋があり、エラリーン・クイーンさんという大金持ちの方の部屋とのこと。


 そして、エレベータールーム側から左翼の塔に向かって、イーロウ・オートコさんという俳優の方の部屋、その隣がジニアス・サッカセンシュアという有名なサッカー選手の方らしい。



 





 とりあえず、部屋に案内された私はすぐに、コンジ先生の部屋を訪ねた。


 そう、ムフフなことをこれから二人で……。





 とかそんなお色気のあることをするわけじゃなくって、コンジ先生の荷物の荷解きやら、整理やら助手の仕事は忙しいのです。



 「君! もうちょっと静かに片付けられないかね? 読書の気が散るだろう?」



 とかなんとか言ってるコンジ先生の頭の上から、この重たいトランクを落としてやりたい衝動にかられながら、荷解きをせっせと進めるのです。




 なんと言ってもコンジ先生って本当に身の回りのことはさっぱりなんですよ。


 あーあ。さっさと優雅に紅茶なんて飲んでるし……。


 私も早く片付けて、休憩したいなとか考えてると、部屋をノックする音が聞こえてきた。





 「お疲れかも知れませんが、昼食の準備ができました。キノノウ様はいかがいたしますか? お疲れでしたら、夕食からご一緒でも構いませんが。」


 シープさんの声だ。


 そうか。ちょうど正午だもんね。


 「もちろん、いただこう。早く美味い食事にありつきたいものだ。」


 「ですよね! さっすが、コンジ先生!」


 「ジョシュア。君は片付けを優先してくれても構わないんだが?」




 「コンジ先生……。人間の寿命って、突然、縮まることがあるらしいですよ?」


 「あははは。怖いねぇ。ジョークだよ。もちろん…。あははは。」


 私って感情が顔に出やすいのかしら?


 なんだか、本当に一瞬、コンジ先生のこと殺さんばかりの勢いで睨みつけたっぽい。


 コンジ先生が、本気で引いたくらいにね。




 まあ、私に食べ物のことで冗談は通じないのである。


 やっぱ、私って食いしん坊なのかしら?





 そ……そんなこと……、ないよね?


 普通よね。この年齢なんだし。


 ちょっと食を追求したい年頃ってだけじゃない? ね?






 「では、こちらへどうぞ。」



 そして、私たちはシープさんに案内されて、2階中央のダイニングルームへ向かうのだった―。







 ~続く~



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る