劣等感が泣いている

中洲ノ粤犬

第1話

俺には何があるだろう。特段なにかに秀でているわけではなく、また他の人と同じ様にしようとしても手間取り、小馬鹿にされる。

どうしろというのだ。

「まだ若いからなんでもできる。」俺より数十年上の先輩方は簡単にそう言うが、それがすべての若者に当てはまるわけではない。

まったくだ。その台詞は聞き飽きたよ。

「エネルギッシュにいけるものならとっくにいってるさ。」俺の心がキリキリと傷みながらか細い声でそう呟いた…。


まるで押し潰されるような人生だった。

「出る杭は打たれる」「協調性がない」「要領が悪い」ガキの頃から散々打ちのめされてきた。

所詮、連中にとって自分がどうするかは問題ではないのだろう。仲間とうまくやることで彼らの頭の中は占められている。気に入らないやつは俺みたいに処刑される。

「出る杭を伸ばす」「個を尊重する」「真心込めて丁寧に」そんなことは微塵も思ってはいないのだろうな。無機質だ。

周りに合わせる笑い、空気の読み合い、スピード勝負、それが『ここ』で生きていく中では大事だね。それはロボットの回路のように連結されて俺の頭を狂わせる。


「疲れているのか?」「少し休めよ。」

だが、お前の気遣いが更に俺を辛くする。

そんなのは常套句だ。

「甘えるなと言われてきたんだ。お前に甘やかされると腹が立つ。」と劣等感は俺の心に向かって唾を吐きかけた。


劣等感が泣いている…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る