夢見た英雄

酸化する人

第1話思い描いていた未来

「ねぇねぇ!お母さん!!」

「なぁに?宗一。」

「ボクね!絶対にヒーローになるって決めてるんだ!!」

「へぇ…。それまたどうして?」

「そんなの決まってるじゃん!!…かっこいいからだよ!!」



そんな風に、夢と希望であふれていた少年も、長い年月によって変容していく。

全く違った生き物へと…。



「今年で38か…。おっさんになったもんだなぁ。」

ボーッとしながら、洗面台の鏡に写る自分を見つめる。

目元に微かなクマができていた。

別に、疲れたことはしてないはずなんだが…。

休み明けのせいもあるのかな。


あるいは…。


「年齢による弊害か…。」

この年になると嫌でも感じる体力の衰え。

それに気づかされる度に悲しくなってくる。


「…ってか!もうこんな時間かよ…。遅れる!」

さっさと社会人の戦闘服を身にまとい(一部では、人を束縛する衣服と言われているらしい)勤め先へと急ぐ。





「ギリギリ到着~。危ねぇ。」

なんとか、時間内に自分の席へと着くことができた。



走ってきたことによって生じた動悸を沈めるために、少しだけゆっくりしていると上司の山田から声をかけられる。

「おい。田中。これはお前の作った企画書か?」


以前、俺が作った企画書じゃないか。なんで、山田が持ってんだよ?


「…はい。未来の子供たちの保険制度ということをテーマにして」

「もういい。そんなもの当社には必要ない。無意味なことを考える暇があったら、一人でも多くの顧客を獲得して来い!」


無意味…か。


こうなることは分かっていた。

俺の企画書が、運良く山田の目に触れなかったとしても、結果は同じだっただろう。

所詮、一社員の企画なんて見向きもされない。


情けねぇな…。


時間は緩やかに進んでいき、そろそろ帰宅する時間になった。

この会社は基本、定時である20時までに帰らなければならない。

時々、家に持ち帰って仕事をやらなければならない、ということもあるが、それを考慮してもホワイトだと思う。


帰るか…。




いつもの帰り道。

居酒屋さんから発せられている笑い声を聞きながら、歩く。


「おい。クソガキ!!なにしやがる!!」

ドガッ


突然けたたましい声と同時に鈍い音が響いてきた。

辺りにいた人たちは騒然とする。

何事だ?

声のする方へと目を向ける。


ヤクザらしき人が数人で、男子中学生二人を囲んでいるのが目に映った。


一人は、顔が殴られたせいなのか腫れており、もう一人は、涙で顔をグチャグチャにしている。

「いってぇ!!クソッ!おまえらが、先に手を出してきたんだろ。謝れよ!健太に!!」


「け、憲一くん!ボクが悪かったんだ。だから…。もうやめて!」


あれは…助けないと、だよな。


「ヒャハハハッ。本当は、これ使いたくなかったんだけど…。」

ヤクザの一人が、黒くて小さな物体を取り出すのが見えた。


あれは。まさか。拳銃!?


冗談じゃねぇぞ。

あんなのくらったら…死ぬじゃんか…。


俺はあまりの恐怖に、身動きがとれなくなってしまった。

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夢見た英雄 酸化する人 @monokuroooo

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