(三)

 君の家は地元じゃ有名な名家だった。だから君には許嫁がいた。

 「会ったこともない人間と結婚なんかしたくない」って君はよく愚痴っていた。

 その言い方がいつも冗談っぽく言っていたので、結婚相手が決まっているなんてこと、僕には冗談だと思っていた。

 それにまだ高校生だったし。しかも君とは家族ぐるみの付き合いで、君は妹みたいなものだった。そもそも結婚などという人生の一大イベントなんて、一〇年以上先のことだと思っていた。

 だから僕には君をさらうなんてできなかった。だからあのとき僕は、「バカ言うなよ」とだけ答えたのだった。


(続く)

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