第2話

 家についた。やっと俺の家だ。

 俺は家族と住んでいるので、俺の家でに及ぶことは一切ない。


 その時、スマホが震えた。俺は玄関先に立ったまま、電話に出る。


 早川はやかわからだった。


『もしもし? 和人くん?』


 早川の透き通った声が、俺のスマホから聞こえた。


『和人くん、今日、来られる……?』


 自信なさげな声。

 これで何回目だと思っているのか。


「行けるよ。早川の家に何時くらいに着けばいい?」


『いつでもいいよ? ……じゃあ、六時でどう?」


 六時か。あと二時間ほどだ。

 

「分かった。それまでに早川のところに行くよ」


『うん、ありがと』


 俺は出かける準備をするため、風呂場へ向かった。とりあえずこの冷えた体を温めたかったのだ。

 散らかった脱衣所でテキトーに服を脱いでいく。元々汚かった脱衣所が、更に汚くなった。

 風呂場へ突入する。シャワーを温水にして、顔面にぶっかけた。


「ばわわわわわわ」


 大量の水を飲むことになったが、温かくて気持ちがいい。急速に体が温かくなっていくのを感じる。


「湯船にお湯はれば良かったな」


 そんなことを今更気にしてもしょうがない。もう入ってしまっているから。


 出来るだけ早く風呂は済ませて、今日着ていく服や、髪型のセットをしたい。

 俺は優柔不断なので、選ぶのにかなりの時間を要する。


 風呂場から出ると、六時まであと一時間四十分というところまで、時計の針は進んでいた。

 結構余裕があった。

 だが、早いに越したことは無いので、俺は綺麗な下着を取り出して、身に付けた。


 勝負下着とかは存在しないが、雰囲気をぶち壊しにしない程度に新しいものが良かった。


 今日は、俺の両親は仕事のため、家を空けている。俺が早川の家から帰ってくる頃には、家にいるだろう。


 自分の部屋のクローゼットから、何十分も迷った末に、お気に入りのTシャツを手に取る。梅雨の時期は蒸し暑い。

 この半袖Tシャツ一枚で十分だ。

 ズボンは一枚しか持っていない。ただのジーンズである。

 

 時計に目をやると、五時二十分だった。


「家、そろそろ出るか」


 独り言を言ってから、俺はバッグに、今日買った避妊具を入れて、外にでた。


 外はやっぱり強い雨が降っていた。大きめの傘を持って、家の門から出る。律儀に右と左を確認してから、道路の反対側へと渡る。


 いつもなら自転車で行くのだが、今日は雨が降っているので、歩くしかない。憂鬱で仕方ないが、早川と会えるのは土曜日だけだ。


 案外すぐに早川の住んでいるマンションが視界に入ってきた。

 茶色を基調とした、よくある賃貸だ。だが、少しボロくて、小さめ。


 インターホンで、505号室のチャイムを鳴らす。


『あ、和人くん? どうぞー』


 早川がそう言うと、エントランスの扉が開かれた。

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