サンドイッチ~伯爵の密室ゲーム~

夢美瑠瑠

サンドイッチ~伯爵の密室ゲーム~

         掌編小説・『サンドイッチ』



  サンドイッチ伯爵がいつも、サンドイッチ片手にトランプをしていたのは、強ち食事の暇を惜しんだだけではなかった。

 彼は手品師という別の顔を持っていて、いつもジョーカーとスペードのエースを、サンドイッチに仕込んでいたのだ。

 ポーカーをする場合に、最後の一枚がどうも揃わないときに一か八かカードをすり替える。

 相手もその札を持っていた場合は万事休すだが、うまくいけば大きな役を作れたりする。他のゲームでも場合に応じてジョーカーやスペードのエースを出せれば、有利になる。

 バレた場合は険悪なムードになって、もうその相手とはカードをしにくくなるかもしれないが、その時はその時で、しかしそういう話が広まるのは辛いので、口止め料を払う。

 鷹揚な相手なら、「おや?カードが紛れ込んでいたみたいですね?」で、済んでしまう場合もある。

 

 その日もハムとレタスと玉ねぎのサンドイッチに、オールマイティーのカード二枚を文字通り最後の切り札として隠し持って、伯爵はカードをしていた。

「エースの4カードです。あなたは?」

「キングのファイブカードです。いただきですね」にっこり微笑んで、チップをかっさらう。当然に最後の一枚は手元のジョーカーなのだ。

 ジョーカーを捨てる人はまずいないから、これは大丈夫なケースだ。

 

 今日の相手は大富豪なので、レートも飛び切り高くて、負けるわけにはいかなかった…

「ロイヤルストレートです」

「失礼。ジョーカー込みのロイヤルストレートフレッシュです。お気の毒ですな」

「今日もジョーカーに好かれていますね。貴方のことを『ジョーカーの恋人』と呼ぶ人もいますよ。」

「それは気をつけないと。いえ、光栄なことですね」


 勝負は進み、大富豪の持ちチップが大分少なくなって、最後の1ゲームになった。

最後の1ゲームには双方とも全部の持ちチップを賭けるというのが、このクラブの慣例のルールになっていた。そのルールだと不公平になる場合もあるので、相応のペナルティを支払って、最後のゲームをパスすることもできた。

 が、逃げるのが嫌いな伯爵は勝負することにした。

 最後のゲームを普通に勝てればいいが、あまりジョーカーに恵まれすぎても、不自然になるのでできれば使わずに済ませたい。


 が、何たることか、相手はまたしてもロイヤルストレートフラッシュ、を作り出してきた。


(こいつも何かイカサマをやってるんだろうか?)


 切り札を二枚とも使ってスペードのロイヤルストレートフラッシュを作らなくては勝てない。

 さもなくばすってんてんだ。

 伯爵はさっき捨てた札の中から、最悪の事態に備えて取り分けておいた、スペードのクイーンとジャックと10のカードを素早くつかみだして、手元の4カードとすり替えて、一瞬の早業で、スペードのロイヤルストレートフラッシュを作った。


 手札を見せて、「私の勝ちですね。これ以上強い役はありませんから・・・」莞爾として微笑んだ。

 

 が、富豪は余裕綽々だった。


「うふふ。何か細工を弄しましたね・・・イカサマの場合は私の勝ちですね」

「?」


 伯爵は自分のカードをよく眺めてみた。

 なんと!ジョーカーが二枚入っているのだ!

 相手が伯爵が気付かない間に滑り込ませたに違いない。

 スペードのエースが二つのジョーカーに「サンドイッチ」されていた。


「ジョーカーの恋人でも重婚はいけません。法律違反ですよ」


 大富豪はウィンクしてチップをすべてかっさらっていった。


 伯爵はううう、と呻いて、頭を抱えて、その場に頽れた。


<了>



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