5 それでも明るい未来を願う。
「確かに俺たちは恨まれても仕方ないことをしたさ。だけど、子どもたちは?何もしていない女子どもたちは?人狼族に産まれただけで悪なのか?」
人狼族の里にいた人たちは皆、弥生たちを暖かく歓迎してくれた。
見た目は違うが、心は弥生たちと何も変わらない。
悠牙の言葉に弥生は答えられないでいた。
「俺たちはそう思われるようなことをしてきたかもしれない。だけどそれは、俺たちの罪であって子どもたちの罪じゃない。後の世代に背負わせたくないんだ」
悠牙は過去を教訓に変えて未来を見据えている。
過去に囚われたままの弥生とは違う。
「それだけ言いたかったんだ。邪魔して悪かったな」
それだけ言うと悠牙は踵を返し、歩き出した。
その背は過去の罪と未来の希望を背負っていた。
「――悠牙!」
その背に向かって呼びかける。
「今度、皐月の誕生日の祝いをするの。よかったら来てくれる?皐月が喜ぶから」
今の弥生の精一杯。
悠牙はひらひらと手を振って去っていった。
そして数日後。
今日は皐月の誕生日だ。
皐月に小春、弥生と暁斗それに悠牙を交えてささやかな祝いの席が設けられた。
「皐月、おめでとう」
「ありがとう、姉さん」
皐月にとってこの日ほど待ち侘びた日はなかっただろう。
喜びに満ちあふれている。
その浮かれようを見ていると、これから危険な仕事に身を投じようとしている弟が心配になる。
「心配で仕方ないって顔してるぜ、姉ちゃん」
悠牙がニヤニヤしながら話しかける。
先日のことがなかったかのように、こうして普通に話しかけてくれる。
それがありがたい。
「そりゃあね、まだまだ未熟だもの」
「まぁちょっと甘いところがあるな。でも、あいつ強くなるよ」
甘ちゃんだけど素質はある。
そう思っていたのは身内の欲目ではないらしい。
「それでも心配は心配よ弟だもの」
たとえ皐月がどんなに強くなろうとも心配は尽きないのだろう。
たった一人の弟だ。
それでも皐月の未来が明るいことを願う。
そして、その日は意外と早くやってきた。
皐月の誕生日の翌日、里に入った依頼を皐月と小春が受けることになったのだ。
初めての依頼は他の組と組むことになっている。皐月と小春は弥生と暁斗と一緒にいうことになった。
場所はこの間弥生と暁斗が向かった森。
森の奥は魔物がたくさん出る。
定期的に退治に向かっている。
四人は薄暗い森の奥に入る。
皐月と小春は落ち着かない様子だ。
「いいか。魔物が出たら俺と皐月は切り込むぞ? 小春は弥生と援護してくれ」
歩きながら皐月と小春に指示を出す暁斗。
弥生と暁斗、ふたりなら改めて打ち合わせすることもないが、皐月と小春は初仕事である。
意気込むのは良いが、しっかりと打ち合わせておかないと味方を傷つけ兼ねない。
「いいか。ちゃんと仲間の動きを見ろよ? 俺たちは1人で闘うんじゃない。4人いるんだからな」
昼間でも薄暗い森の中を4人が一塊になって進む。
時折何か得体の知れない鳴き声が聞こえ、小春と皐月はその度に辺りを見回している。
「声の大きさと気配で大体の位置はわかるでしょ? 向こうに襲う気がないのなら相手にしなくていいわ」
弥生の言葉に頷く2人。
初めての仕事とはいえ、ずっと鍛錬をつんできた。
殺気ぐらいは十分に読み取れるだろう。
ふと、前を歩く皐月と秋斗の足が止まる。
「いるな」
暁斗が呟く声に皐月は無言で頷く。
その表情は硬い。
少し後ろで小春が息を飲む気配がする。
小春をチラリと見と暁斗は続けた。
「あとは手筈どおりだ。うまくやれよ?」
戦い慣れている弥生と暁斗は余裕の表情だ。
一気に空気が張り詰める。
魔物が出れば弥生と小春が遠距離から攻撃、弱ったところを暁斗と皐月が倒す。
それが4人で決めたことだった。
そして、それは弥生と暁斗の普段の戦闘パターンである。
皐月と小春も似たようなタイプなので、そう決めた。
「いくよ。小春」
弥生が弓を構え、矢を放った。
それと同時に小春がクナイを投げた。
それは2体の魔物に命中し、魔物は雄叫びをあげた。
しかしその瞬間、弥生と小春の攻撃の瞬間に飛び出していた暁斗と皐月が魔物を切り倒す。
雄叫びをあげたまま、魔物たちは崩れ落ちた。
それはほんの一瞬の出来事。
無事に魔物を倒すことができたようだ。
「やったぁ!」
皐月は飛び上がって喜んでいる。
小春も笑顔で弥生を見た。
前線の2人が振り向き、弥生たちの方へ向かう。
「お前らさ、初任務にしては簡単だったんじゃねぇの?」
「そんなことないわよ、お兄ちゃん。あたしたちだって…」
小春が言いかけた瞬間、木々の狭間から光るものが皐月を襲う。
咄嗟に気づいた暁斗が仕込んでいた短剣を投げるが間に合わない。
皐月の腕を引き、前に出た弥生の右肩に突き刺さる。
「弥生!」
「弥生さん!」
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