第16話

 明日テミスと会う約束をした僕は昨日行った洞窟のダンジョンへと参じていた。

 有り金はなくなるけど馬車で行けば三〇分で辿り着ける。

 まずはテミスが育ててくれたクリスタルに護符を登録した。

 クリスタルに護符が触れると光が溢れ、全身を包む。こうすれば例え死んでも護符を失わない限り、ここに戻ってこれる。

(昨日は半信半疑だったけど、今日は安心できるな)

 同時に護符だけは失ってはいけないと再確認する。

 僕はライセンスに縫い付けて服の内ポケットに入れているけど、人によっては体に巻き付けたりしているらしい。

 殺されるのは最悪じゃない。捕まって護符が奪われるのが最悪なんだ。

 人形クリーチャーに捕まることを想定して、猛毒を含むイバヤの実を歯奥に細い紐でくくりつけている人もいると聞く。捕まったら噛んで自殺するんだ。

 僕は拾った木の棒とタモイさんの助言通り石を拾ってダンジョンを探索した。

 エリア1ならこれでもなんとかなるけど、昨日得た経験でエリア2では通用しないことが分かった。

 まずは無理をせず、ここにいるクリーチャー達を確実に倒せるようにしたい。

 僕は拾った石で飛んでいる小さなコウモリ、【モスキートバット】を撃ち落とし、そこをすかさず木の棒で殴り倒した。小さな牙がぽろっと落ち、モスキートバットはダンジョンへと還っていった。

「よっし! まだ腕は鈍ってないみたい」

 子供の頃はよく石で木の実を落として食べていたけど、ここでそれが活きた。

 クリーチャーを倒して素材を手に入れ、町の素材屋で売ればちゃんとした装備が手に入る。

(テミスを守るんだ。せめて剣の一本くらいは買わないと)

 スライムやウィスプは動きが単調で慣れると簡単に倒せるようになった。一方で動く泥人形【ドローン】なんかは気を抜くと次々と仲間を呼んで厄介だ。一撃で倒すか、仲間を呼ぶ前に素早く全てを破壊しないと終わらないらしい。一体一体は強くないけどこれだけ多いと手強い。

「くそおおおおおおおおおぉぉぉっ!」

 結局僕十体に増えたドローンを対処できず、走って逃げた。

 こういう基本的な知識が僕にはまだまだ足りてない。逃げていると情けなくなって自問自答し始める。

(これでいいのか? エリア1に出てくるクリーチャーは言うならば下っ端だ。こんなクリーチャーも倒せずに、僕はテミスを守れるのか?)

 僕は歯ぎしりして立ち止まった。振り向くと何体もの泥人形がカクカクと不規則な走りで追いかけて来る。

「いいわけないだろッ!」

 僕は石を拾ってドローンに投げつけた。固まった泥の頭がはじけ飛び、狂ったように動き出した。それが周辺のドローンを巻き込んでいく。

 僕は木の棒を握りしめ、ドローンの群れ目がけて走り出す。

 飛び込んでまず一体を袈裟懸けで。それから横に薙いで一気に三体倒した。

 頭を壊せば仲間も呼べないし、すぐに止まることはすでに分かっている。

「強くなるんだよッ! でなきゃッ! なんにも守れないだろうがッ!」

 僕は自分を鼓舞するように叫びながらドローンの群れを倒していった。

 覚悟が決まるとあとはやるだけで、やってみると案外できた。

 そりゃあ反撃も喰らうし痛いけど、逃げるよりは随分気持ちが楽だ。

 経験を積むと強くなれた気がして嬉しかった。

 それから僕は日が暮れるまでエリア1を奔走した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る