第102話 和幸さんの想い

「和幸さん、私ともう一度付き合いたいと思っているというのは……!」


「ああ、今も言ったが、俺の紛れもない本心だ」


 聞き間違いではないかと思い、和幸さんに確認してみますが、どうやら聞き間違いではなかったようなのです。


「悪い、和幸兄さん。今日はもう寝る」


「……カズ兄?ちょっと待って……!」


 突然カズさんが立ち上がり、和幸さんの部屋を出てしまわれました。ワカナちゃんも私にお辞儀をした後、カズさんの後を追いかけていかれたのでした。


「千晴、俺の父さんが再婚したって話は前にもしたか?」


「はい、私と付き合う少し前にお母さまが亡くなられたという話もその時に聞きました」


 そうなのです。和幸さんは5年前に交通事故でお母様を亡くされているのです。そして、私と付き合いだしたのは今から4年ほど前になります。


「そう、父さんが再婚したのは今から3年前だ。そして、その再婚相手の女性の連れ子が一也と若菜の2人だ」


「そういうことだったのですね……再婚したお相手に連れ子がいるという話は以前にもされてましたが、まさかカズさんとワカナちゃんだったとは……」


「まあ、俺もゲームで一也と若菜が千晴と知り合っていたとは思わなかったよ」


 本当です。私もSdnGで偶然知り合ったおふたりが和幸さんの弟さんと妹さんだとは想像もしませんでした。


 ですが、私が気になるのはカズさんの態度です。急に様子が変わったのですが、何か傷つくようなことを言ってしまったのでしょうか?


「千晴、一也にはまた後で話を聞いておく」


「は、はい。お願いします」


「それじゃあ、俺は飲み物でも取ってくるよ」


 和幸さんはゆっくりと立ち上がり、あまり足音も立てずに部屋を出られたのでした。


「……ハルお姉ちゃん?」


「ワカナちゃん?どうかなされたのですか?」


「……えっと、ハルお姉ちゃんに話があって……」


 和幸さんの部屋の入り口で立ち止まるワカナちゃん。私は急いで部屋の入口へ。


「……ハルお姉ちゃん。今度、SdnGにログインした時にカズ兄とゆっくり話をしてあげて」


「それは全然構わないのですよ」


「……話はこれだけ。私も部屋に戻る」


 ワカナちゃんはそそくさと向かい側にあるお部屋へと身を隠されました。その少し後、和幸さんが飲み物を持って参られたのでした。


「千晴?何かあったのか?」


「いえ、ワカナちゃんと少しだけお話をしていただけです」


「……そうか。とりあえず、飲み物片手に話そう」


「はい!そうしましょう!」


 ――その後、私は和幸さんの部屋で、飲み物を片手に大学でのお話をしたり、逆に和幸さんの大学での話を聞いたりしながら、夕方まで時間を過ごしたのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る