第92話 アヤの号令

「全員、アタシのところに集合しなさい!」


 そんなアヤさんの声が周辺へと木霊します。


 アヤさんの声をきいて、真っ先に集合したのはマサミさん。そして、キヨさんは私との戦いも途中ですのに、すぐにアヤさんの元へと向かわれました。そうしているうちに、鞭使いの方など他の方たちも集合して来られました。


 その間に私のところにはワカナちゃんとルビアちゃん、テツさんが駆け寄って来られました。


「カズさんとユーカさんは……!」


 私が右の方を向くと、木の根元で尻もちをついているカズさんと、カズさんに大剣を振り下ろそうとしている鬼人族オーガのプレイヤーがおられました。


「カズさん!」


 私が間に合わないのを承知で助けに行こうとしますが、光線状の水の砲撃がカズさんにトドメを差そうとしているプレイヤーの方を押し流してしまわれました。


 その水魔法を放った方向へと視線を動かすと、そこにいたのはユーカさんでした。ですが、ユーカさんの元でチカッと何やら光った次の瞬間には私の近くまで吹き飛ばされてまいりました。


「ユーカさん!?」


「ああ、ハルか。あの槍使いの攻撃を受けてしまったんだ。だが、大したダメージではない」


 ユーカさんが起き上がろうとなさっている時、光の粒子が私たちを包みました。どうやらルビアちゃんの治癒魔法のようです。しかも、パーティ全員の体力ゲージを全回復させるものです。


「あれ?ワカナちゃんは……?」


「ああ、カズのところへ行ったぞ」


「なるほど、カズさんの救助にワカナちゃんが向かったのですね……!でしたら、安心です!」


 残るテツさんが状況を説明してくださいますが、アヤさんの元には散っていた戦力が再結集されていました。


「“フルリカバリー”!」


 ルビアちゃんの治癒魔法が発動され、パーティ全員の体力ゲージは何事も無かったかのように全回復したのでした。さすが、ルビアちゃんです!


「にしても、ユーカ。敵の攻撃が直撃するのを覚悟のうえでカズを助けるとはよくやるよ」


「……別にくらったところで倒されるほど私は弱くはないからな」


「強がるなって。体力ゲージ、半分くらい削られてただろ?」


 テツさんとユーカさんがお話ししておられますが、自分がダメージを受けるのを分かったうえで仲間を助けるなんて、ユーカさん凄すぎです……!


「ハルお姉ちゃん!カズ兄連れてきたよ!」


 そうしているところへ、無事なお姿のワカナちゃんとカズさんがやって来られたのです。


「ユーカ、あの時はありがとう。助かった」


「なに、あのままお前がやられるとハルが大騒ぎするからな。お前を助けたくて助けたわけじゃない」


 照れ隠しなのか、ユーカさんはカズさんに対してそんなことをおっしゃっておられましたが、やったことそのものは仲間思いなのですよ。


 そんな時、アヤさんの杖に魔力が収束しているのが、視界の端に映ったのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る