勝利だギューちゃん

第1話

今、旅に出ている。

少し贅沢をして、特急に乗っている。


ちなみに自由席だ。

指定席は、金がなかった。


わりと、混んでいる。

ほぼ満席と言っていい。


僕は車窓を眺めている。

移り変わる景色が、映画のようで楽しい。


「人生は列車の旅のようだ」


誰が言ったのかは知らないが、上手い事を言う。


今、僕の隣にはひとりの少女が、寝息を立てている。

僕にもたれかかっている。

とても、気持ち良さそうだ。


この少女は、僕の彼女でも知り合いでもない。

肉親関係でもない。


会うのが今日が初めて。

そう・・・全くの赤の他人。


僕の隣の席に彼女が座ったのは、全くの偶然。


特急車は、基本2列シート。

たいていは、6両編成。


その中で、赤の他人と隣通しになるのは、どのくらいの確率だろうか?


乗ったのは、僕が始発駅。

少女は、次の駅から乗ってきた。


「あのう、隣よろしいですか?」

少女が、声をかけてきた。


「どうぞ」


それだけ言うと、彼女は僕の隣に腰を下ろす。

詮索するのは良くないが、家出少女ではないようだ。


程なくして余程疲れていたのか、彼女は僕にもたれかかってきた。


以前は、車掌が切符のチェックをしていたが、最近は機械でわかるのか・・・

切符を拝見される事は、まずなくなった。


数時間ほどして、少女の下りる駅に近づいてきた。

彼女はあわてて起きて、網棚から荷物をおろす。


その時に、手帳がこぼれ落ちた。


僕はそれを拾い、少女を呼びとめ、「落しましたよ」と渡した。

少女は、「ありがとうございます」とお辞儀をして、下りて行った。


あの少女と、出会う事は、もうないだろう。

もしあれば、そのほうが天文学的確率だ。


もし、前世があるのなら、その前世でも少女と出会っていただろう。

来世があるのなら、そこでも出会うのかもしれない。


でも、それはそれ。


僕は旅を楽しもう。


まだまだ、目的地は先だ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る