火砕現場

エリー.ファー

火砕現場

 火の中では生きていけない。

 そのために人は火から逃れようとする。

 しかし、火こそが文明を進歩させてきた側面がある。

 火なしで人を語ることは不可能である。

 しかし、人の命を奪うものとして火は代表格にあげられる。

 それだけ危険であり、未だに人の手に余るものである。

 人は時として火について考えを巡らせる必要がないと考える。

 それは火というものを甘くみていると言えるかもしれない。

 人はいつしかそうやって自然を手中におさめていると勘違いするようになった。

 何度も繰り返してきた過ちから何も学んでいないのである。

 人は火に世界を見た。

 人は火に文化を見た。

 人は火に自分を見た。

 人は火というものを神秘的なものへと変えていった。

 それは人がより火に近い存在であることを示している。

 火が遠くなることはな一切ない。

 それは人が火になろうとするためである。

 人という字と火はよく似ている。

 両の手に油を注がれそこに火を付けられて一晩立ち尽くす。

 そうして犠牲になった女の成れの果てが火である。

 火は人を飲み込み、人はその火を飲み込んでいく。

 人の中に宿る火は少しずつ形を変えて赤子となる。

 赤子とは火の塊だ。

 生まれたての人の火の塊なのだ。

 その尊さは熱を抱え、人は皆その火を抱えようとする。

 明かりはない。

 しかし。

 明かりを作り出す火となるのである。

 

 火が消えた。

 もう、どこにもない。

 あるのは暗闇のみである。

 人の足音すらない。

 闇の中に音も飲まれてしまったのか。

 それを探すために歩き始めるが、何かを踏んでしまう。

 妙に温かい。

 火か、火の子どもか。

 しかし。

 それに注目している暇はない。

 火が消えてしまったのだ。

 探さなければならない。

 闇の中にあると考えられるそれらを探さなければならない。

 いつかこの闇から抜けられなくなるのだろうか。

 火がないというこの状況を何も思わなくなるのだろうか。

 それでいいのかと尋ねる者すら、火に飲まれてしまった訳である。

 こんな悲しい物語があるだろうか。

 憎しみを持って火を消した。

 火は二度とつかない。

 そこに火は生まれない。

 燃え尽きたのではない。

 存在を認めなかったのだ。

 本当にそれだけなのだ。


 火が消えてしまうとして、私たちはそこに悲しさを持ち込むことはできるだろうか。

 危険な存在が、有用ではあるが人の手に余る存在が。

 消えてなくなった。

 それは間違いのない悲劇ではないのか。

 おかしいほどの嘘の連なりではないのか。

 慌てふためき自分を見失い、気が付けば何もかも手に入れられなくなったすべてが。

 そこにあるということではないのか。

 間違いなく、嘘をついた。

 本当に火を失いたくなかったのだ。

 音がまた一つ。二つ、三つ。そうやって並べば急激に変わりだすのは現実との相違点のみである。


 火が消えてしまう。

 また、消えようとしている。

 犠牲はつきものだ。

 失ってはいけない。


 どうか、愛してください。

 火を愛してやってください。

 何もかも、大切にして抱きしめることなど誰にもできないことですが。

 それでもいいのです。

 火を抱きしめてやってください。

 火は、どうにもならないわずかばかりの温情を持った何かです。

 焦って手から落としてしまえば何にもなりませんし、そのことは火が一番よく分かっています。

 この火は比喩です。

 本当の意味は。

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