9. 〜瑞希〜
撮った写真のデータを振り返ることが増えた。特にあの紅葉の写真は。
モデルをする清也が照れくさそうにしながらもアドバイスをくれた数枚の写真は、他の自分だけで撮ったものとは比べものにならないくらい素敵だった。
彼のかっこいいところを引き出せたような気がする。
あのときは楽しかったなあ。
おもむろにスマホを手に取って清也へメッセージを打つ。
「今週末、お時間あれば
そういった内容のことを躊躇うことなく送信。
あれからも清也は何度か学校に話し合ったり作業したりしに来ているので、個人的な話はしないもののすごく近付いた気持ちになっていたのだ。
しかし後から思えば勇気のあるメッセージ。
友人から「瑞希は積極的すぎる」とよく言われるのはこういう突っ走る性格のせいだろう。
“ぐいぐいくる女”と思われただろうか……ベッドに寝転がりながら後悔しているとすぐに返信がきた。
飛びつくように内容を見る。
「予定空いてます、行きましょう!」
ほっと胸を撫で下ろす。
集合場所と時間を決めて、私はパックをしてリンパマッサージをしてカメラを磨き始めた。
電車で家から2駅のところで一旦降りて、違う電車に乗り換えなければならない。
清也はすでにその電車に乗っているので、「何両目ですか?」と連絡を取りながらホームを移動する。
歩きやすいスニーカーにして正解だった。
電車が来た。
ドアが開く前から清也と目が合って、お互いなぜかぎこちなく会釈をする。
彼はストライプのシャツに黒のスキニーパンツというすっきりとした服装をしていた。
バッグらしいバッグは持っていないようだ。
プシューと音を出して開いた電車に乗り込み、清也に駆け寄る。
挨拶をし、定型文のような言葉を少し交わしてお互いにぺこぺことお辞儀をし合う。
そっとドア脇に私を移動させ、清也はつり革を掴んで私の前に立った。
カーブのところで揺れに耐え切れずふらふらとした私の肩にそっと手を添えて支えてくれた。
そのまま私たちは仕事のことやこの間行った美味しいカフェのことなど他愛もない話をしながら5駅が過ぎ、目的の駅に到着した。
電車から降りるとふわりと穏やかな風が吹き、私のスカートを揺らす。
風は冬の気配を含んでいて肌寒いのでニットカーディガンを羽織ってきたのは正解だった。
2人で並んで歩けるくらいの道を挟んで色とりどりの秋桜が隙間がないほど咲いている。
風によって全体の色彩が一斉に動くのが綺麗だ。
秋桜は比較的香りの弱い花なので私は今まで香りのない花なのだと思っていたが、ここで初めて秋桜にもふわりとした優しい香りがすることを知った。
白、ピンク、濃いピンク……グラデーションのように配置されていて、思わず感嘆の声が漏れた。
あ、とだけ言って突然しゃがみ込み、清也は1つの秋桜に焦点を当てて撮り始めた。
「これ、良い感じじゃないですか?」
見せてくれた写真の秋桜の中心にはハチが止まっていて今にも飛び立とうとしていた。
「太陽の射し込み方、このハチの生き生きした瞬間、やっぱり清也さんの撮る写真は素敵です」
思ったことを口にすると、彼は照れて笑った。
私たちはその後も写真を撮って良いものが撮れる度に見せ合った。
私は地面に対して平行に撮って、秋桜が果てしなく広がっているように見える写真がお気に入りだ。
それを清也に見せると、
「床が秋桜で出来ているみたいで夢のような写真ですね、俺も好きです、この写真」
そう言って私と目が合った瞬間ふふっと笑った。
理由がわからなくて首を傾げると、今度はより大きく笑って口元を押さえて、
「すみません、写真を見せている瑞希さんがあまりにも嬉しそうで……子供みたいに見えちゃいました」
「もう26歳なのに子供みたいなんて言われると思いませんでした」
思わず両手で顔を覆った私を見て、また清也は笑った。
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