水晶騎士(2)
「よろしくお願いしまああす!!!!」
「良い気合いだ。じゃあ始めようか。と言っても最初だからそんなたいそれたことはしないよ。まずは普通に剣の振り方でも見ようか。」
アクートさんはそこらに生えている長い枝のような水晶を2本手折る。
「この棒を剣代わりにかかり稽古をしよう。私が元立ちをするから普段どおりに打ち込んで来て。」
「ハイ!!」
アクートさんから水晶の棒の片方を渡され少し間合いをとる。
「ふむ......」
アクートさんはふとその細い金色の眉を寄せた。
「どうかしたっすか?」
「ん、水晶が君の魔力に反応して光るかと思って実際光ったんだけどうっすらだから魔法の適正はそんなに無いなー、なんて。そんな事を考えてただけさ。教える内容にも少し影響有るしね。」
「お、押忍。ってかやっぱり俺って魔法の適正はないんスね。」
「まあ、全く0では無いから水晶とかを介せば簡単なものなら使えると思うよ。それとこうやって話してる間もどんどん斬りかかって来て良いんだよ?」
「そうすか。じゃあ遠慮なくッ!でぇやああああ!!」
俺は腹から出した気合の怒号と共に大上段から全力で水晶の棒を斬り下ろす。これは簡単に片手で防がれたので鍔迫り合いに持ち込み、棒を握った手と足の力で後ろに跳び、最初と同じくらいの間合いを空ける。
「デヤァ!!タァ!!」
大幅の足のステップで近ずいて今度は動作の細かい斬撃や突きを素早く仕掛ける。それに伴い気合の声も浅く短くなる。
俺の出せるほぼ最大の速度だが、アクートさんは余裕の微笑を未だに崩していない。
はて?受ける一方で腕以外にほとんど動きのない余裕のアクートさんだが、時折不自然に揺れている気がする。その意図は全く以て分からないが。
「これぐらいにしておこうか。」
アクートさんの棒切れがぼんやりと光り、俺の棒切れと触れる。その瞬間俺の振るった棒とアクートさんの棒は眩く閃光を放ってお互い粉々に砕け散った。何かしらの魔法だろう。
なんの支えも無くなった前のめりの俺の身体は勢いそのままに前に転んだ。
「ハッ、ハッ、ハッ......ハァ。」
酷使した肺はごく短くしか息を吸わず細かく何度も呼吸をする。が、それも時間が経つほどにゆっくりとした呼吸に変わる。
「ヤッコ、君の剣は荒く大振りで力が入りすぎている。声を出すのは良いが息を吐いてばかりで吸う事を忘れている。それでは無駄に体力を使って長続きしない上に、冷静さを欠き判断力や対応力が鈍る。刀身にもダメージが大きい。一言で言うなれば剣を握ったばかりの素人の剣だ。」
「.........はい。」
無慈悲に真っ当なダメ出しをこれでもかとくらい、自覚できる程に俺の両肩はガクンと落ちた。
そんな誰が見ても落胆した俺の姿をみてアクートさんはフッと微笑んだ。
「だけど剣筋は真っ直ぐ綺麗でブレが少ない。技は兎も角、真面目に剣の素振りを欠かしていない証拠だ。全身の筋力もバランス良く着いている。頑張っている成果は出ているさ。」
「~~~ッ!!ハイ!!ありがとうございました!!」
不意打ちで褒められた事に俺の頭はガバッと上がり、感謝によって逆に勢い良く下げられた。
「まったく......わかりやすいことこの上無いわね。」
一方で頭を勢いよく上下させるヤッコを見て呆れ半分、もう半分を憧憬で埋めて微笑むエルエであった。
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