第13話 サプライズ
そして、二人はほぼ同時に忙しなく俺のほうへ顔を向き直し、信じられないものを見るような目で見てきた。護でさえ、その利発そうな顔立ちを惜しみなく崩して驚愕の表情を浮かべている。
一瞬、俺の後ろに宇宙人でもいるのだろうか、とさえ思った。
「な……なんだよ?」
たじろぐ俺の隣で、「違うよ」と『王子様』らしい凛とした声が、どこか冷ややかに言った。
「陸太と絢瀬さん、同じ高校になって、偶然、再会しただけ」
まるで俺を庇って言い訳でもするような、その口ぶりが気になってちらりと見やれば、香月が遠慮がちに――でも、チクリと刺すような視線で俺を見ていた。
「だよね?」
「ああ……そうだけど」
なんなんだ、この雰囲気?
『違う』って……何が?
なんで、絢瀬が現れた途端、皆、妙な雰囲気に……と、その瞬間、俺はハッとした。皆って誰だ!? ――そう香月に問い質したときのことが、走馬灯のように頭を駆け巡る。
そう……だ。香月が前に言ってた。『護もカブちゃんもヨシキも……とにかく、皆』、俺が絢瀬を好きだ、て『知ってた』、て。
護とカブちゃんの反応は……そういうことか!? まさか、初恋叶った、とか思われてる!?
「違う……いや、そう! 香月の言う通りで」慌てて、俺はカブちゃんたちに視線を戻して、今度は力を込めて断言した。「絢瀬とは同じ高校なんだ! それで、再会して……いろいろあって、今日は一緒に遊びに来たんだ」
『ラブリデイ』の話は……やはり、ここで言えるわけもない。うまくボヤかして説明できたと思うけど……今ので、充分、だよな?
絢瀬も不思議そうにきょとんとしているし、今にも「どうかしましたか?」とか訊いてきそうだ。
これ以上、余計な詮索はしないでくれ――と祈るような思いで見つめる先で、護とカブちゃんは顔を見合わせ、
「な〜んだ」少し、残念そうにカブちゃんはため息ついた。「同じ男として、一瞬、希望を抱いちゃったよ。なぁ、護?」
「なんで、俺に振るんだよ」
「それにしても、びっくりだわ。あの絢瀬セナにまた会えるなんてさ」
あっさりと……二人の興味は俺の初恋から絢瀬本人へと向いてくれたようだ。
よかった、と心底ホッとした。絢瀬の前で、初恋がどうの、と茶化された日には、俺はもうまともに絢瀬と顔を合わせることもできなくなっていただろう。ようやく、トラウマも解消されて、話せるようになった、ていうのに……危ないところだった。
香月がフォローしてくれて助かった。
「うちの妹が、大ファンなんだよね。中学生になったら、セナちゃんみたいな読モになるんだ、てよく鏡の前でポーズ取って練習しててさ。まだ小四なんだけど」
「そうなんですか〜? 光栄です」
「地元の星だよな。あ、写真一緒に撮ってもいい!?」
「迷惑だろ、カブ。会えただけで満足しろ」
「仕方ないだろ! セナちゃんと同じリンクで滑ってた、ていうのが今の俺の兄としての威厳なんだよ!」
「お前はいいのか、それで?」
「日比谷くん、相変わらず、真面目ですね。大丈夫ですよ、写真くらい。SNSに載せないでもらえるなら」
「ほんと!?」
そうして、あれよあれよという間に、目の前で絢瀬とカブちゃんの撮影会が始まり……この隙に、とばかりに、俺は「さっきは、ありがとな」とこっそり言って、香月をちらりと見た。
すると、「ん」とだけ言って香月は微笑んだ。まるで絵に描いたような『王子様』のごとく爽やかに――。
あれ、なんで……と俺はその笑顔に違和感を覚えた。
なんで、そっちの顔してんの?
絢瀬がいるから……? ただ、単にスイッチが切れてないだけ……か? でも、なんだろう――釈然としない。寸分の狂いもないように造られたような笑みが、なぜかこのときばかりは冷淡にさえ思えて。妙な胸騒ぎがした。
「それにしても、今日はすごい日だな。驚いてばっかだ」
一通り撮り終わったようで、カブちゃんの満足げな声がした。
「陸太と香月と出くわすし。陸太とセナちゃんが同じ学校で……それに、香月が女だって分かったし!」
その瞬間、声にならない動揺がその場に走るのを感じた。
おそらく、一斉に。全員の視線がカブちゃんへと向かい、
「カブ!」
「カブちゃん!」
これで再会して何度目か。俺と護の怒声が見事に重なった。
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