SS 4月2日光河華恋16歳
これは私が第三高校に入学するちょっと前の話。
その日、私が玄関を潜ると、人の気配がしなかった。
八時まで友人に誕生日を祝ってもらいながら、カラオケで春休みの一日を過ごした私が家に着いたら時刻は八時半を回っていた。
「ただいま」
おかえりと返す言葉はない。
しかし、二人分の靴はある。
真姫ねぇがこの時間に帰っているのは珍しく、変だなと思っていた。
私はひとまずリビングを目指す。
扉に付いているガラスから漏れる光も無く、リビングに電気は付いていなかった。
そして、私は扉をがちゃりと開け、電気を付けた。
すると、
「「誕生日おめでとう!!華恋!!」」
クラッカーと共に二人の笑顔が飛び込んできた。
私はどんな顔をしていたんだろう。
ほっぺたが熱くって、口角が釣り上がっていたのだけは覚えている。
「・・・え、真姫ねぇ仕事は?」
「今日は可愛い姪の誕生日なんだ、仕事は早めに片付けて帰らせて貰ったよ」
「真姫ねぇと一緒に飯も作ったんだぜ、まぁ座れよ」
そう言って、兄さんは私を誕生日席に座らせた。
そして、ダイニングテーブルに置かれたどんぶりの蓋を順に開けていった。
中から、三つ葉や卵で綴じられたかつが顔を覗かせた。
隙間から卵と出汁でコーティングされた米粒が見える。
私の大好物、煮かつ丼だ。
「それじゃあいただこうか」
真姫ねぇが手を合わせるよう促した。
三人の手が合わさり、真姫ねぇが再び音頭を取る。
「それじゃあ、華恋の誕生日と受験合格を祝って・・・」
「「「いただきます!!!」」」
その日は今世紀最大に幸せな日だった。
いつか更新されていく、最大の幸せ。
けれど、幸せな思い出が無かった事にはならないだろう。
今まで重ねてきた、自分という16年の月日がこれからの未来までをも彩っていく。
私は、これからどんな幸せに出逢うのだろうか──。
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