第60話-犬-

 ケイゴは荒っぽい性格だった。

 ちょっとしたことで怒り出し、店員や部下を怒鳴りつける。

 そのため職場では孤立し、ずっと独身のままだった。


 一人暮らしの家と一人ぼっちの会社を往復する日々。

 友人もいないケイゴは休日も一人で、家かパチンコで時間を潰して過ごしていた。


 いつ頃からだろうか、ケイゴがその寂しさを紛らわせるため捨て犬や野良犬を拾ってくるようになったのは。


 ケイゴは会社からマンションに帰ると、玄関の扉を開けた単に部屋の中から数匹の犬たちの声が出迎えてくれた。

 そのにぎやかな声が、無味乾燥な日々を過ごすケイゴの心を潤してくれる。


「うるせえなあ、おめえらぁ」

 ケイゴはいつものように鞄からカッターナイフを取り出し、ケージの中で吠える犬たちに向かってニタリと笑って見せた。


 ケイゴはこうして、閉じ込められた小さな犬たちを傷つけることで、思い通りにいかない社会への留飲を下げる。


 犬なんかのために金を使いたくはなかったので、ケージを以外にはろくに物を買っていない。

 当然、犬用のエサなど買ったことが無かった。


 ただ、すぐに餓死されると次を調達してくるのが面倒なので、たまに賞味期限が過ぎた弁当などを与えた。

 それでも死んでしまったら、死体は中の見えない袋にくるんでゴミに出してしまう。


 上手く生かさず殺さずの状態にしておいてから、一方的に刃物や先のとがったものなどで小さな傷をつけて遊んでいた。

 ケイゴは自分の快楽のためだけに何度も犬たちを傷つけ、命を奪う。


 その報いだろうか。

 ケイゴは犬に嚙まれて死んでいるところが発見された。


 会社に出勤してこず、電話も繋がらなくなったことがきっかけで同僚が家を訪ね、そこで発見された。


 ケイゴの体には何十か所も犬に嚙まれた跡があり、死因は出血多量だった。

 その歯形はすべて同じ犬の物であったが、不思議なことにその歯形は、部屋の隅でゴミ袋に入れられていた犬の死体の物と一致した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る