第5話-役者-
話が一巡し、再び啓介の話す番になった。
アプリが示す残りのロウソクの数は九十六本。
不気味な字体で表示された漢数字の下には、円形に並べられた炎のような灯りが表示されていて、その所々に火が消えて欠けた所がある。
怪談1つ話すのにも時間がかかり、このペースでは朝になりそうだなと思いながらペットボトルを口につけた啓介は、改めて不気味さを演出するような調子で次の怪談を語り始めた。
「これはちょっとした、都市伝説みたいな話なんだけどさ……」
--------------------
とある売れない役者がいたんだ。
年に何回かちょい役で映画に出て、あとはバイトと親の仕送りで生計を立てていたらしい。
ある時ホラー映画でチョイ役が決まった。
殺人鬼に殺される役だ。
役者は売れてこそなかったが、自分の演技についてのこだわりは強く持っていた。
いや、売れなかったからこそかもな。
いいとこ見せないとって気持ちがあったのかも。
ともかく、その役者はこだわりが強くて自分が殺されるシーンにリアリティが欲しいって思ってたんだ。
まあ実際に殺されたことなんか無いし、想像するしかないよなって話なんだけど。
それでその役者はどうしたと思う?
実際に人を殺して、その様子を観察したんだよ。
何人も、何人も。
世間が連続殺人に怯えている中でも、撮影は続けられた。
でも役者の男はまだ納得のいく演技ができていなかった。
それでとうとう、やっちゃったんだよ。
ナイフで刺されて殺されるシーンの最中に、こっそり自分のことをぶっ刺したんだ。
当然大量に出血したけど、仕込んどいた血糊だと思って誰も気にしない。
撮影は大成功。
悲痛な表情を浮かべた役者の顔は、力なく倒れる体と共に地面に伏せられた。
でも、あまりにも出血が大量だったのと、カットがかかっても役者が起き上がらないのを見て、さすがにその場の誰もが異変に気づいた。
抱き起こされた時には血まみれで、笑顔を浮かべていたらしい。
ちなみに、男の死に様をカットせずに使ったその映画は、ちゃんと完成して公開もされたんだとか。
全然売れなかったらしいけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます