第9話

「【迷宮管理】……よしよし、殲滅は順調だな」


表示切替ボタンを2度タップすると、地図、航空写真と変わってその次に、赤、青、白の3色に塗り分けられた地図が出た。


青が現在のダンジョンの範囲、赤は人間かモンスターが居て拡張できない範囲、白は殲滅完了の証である。



「とりあえず、モンスターの死骸を置く場所だけでも拡張しないとな」


家を中心に11×11ブロックまで拡張。”家”そのものを売却できなくなるのは辛いが、家は親族が1人でも生きてたら売却出来ないっぽいからな……

犬を沢山飼っていることで有名だった一人暮らしのお爺さんの家、ガラスが割れて血が飛び散っていたにもかかわらず売却出来なかったのだ。


「えーと、”まとめて売却”範囲指定」


まとめて売却機能は、選択した区画ブロック上の売却可能なものを全て売却する機能である。ダンジョン内でしか使えない。ダンジョン外でも使えれば日本中の落し物を売り払ってしまえるのに。


これで残ったのは家か瓦礫とかの価値のないものだ。

家を残すか、取り壊すか……

家以外もそうだ。今回は全て売ったが、売却額は同じものを購入するよりかなり小さい為、本当に必要なものは残しておくのが今後、DPの節約に繋がるだろう。


1時間ほどで用済みになった鉄棒をスケルトンの1匹に渡し、新たな武器を購入する。


『魔黒鋼の剣100万DP』


「【剣術】と【身体強化】を寄越せ」


【剣術】は剣術と槍術を持っているスケルトンナイトから、【身体強化】はスケルトンウォリアーから徴収した。


軽く体を動かして調子を確認する。

うん、良い感じと頷いて自身の装備を振り返った。


『力の指輪』×18

『豪腕の腕輪』×4

『俊敏のソックス』

『風のスカーフ』

『帝国の軍服(上下)』

『帝国の軍帽』

『帝国の軍靴』

『身代わり札』

『オーガの革手袋』


身代わり札以外は、いずれもステータスを上昇させる装備である。

カッコイイけど厨二病ぽくてカッコイイと認められない、認めたくない……そんな見た目の軍服を着て、黒の革手袋の下には親指に1つ、それ以外の指に2つずつ指輪を装着している。勿論軍服の下の二の腕には2つずつ腕輪をつけているし、できることなら足の指にも指輪をつけたかったが違和感が凄くて諦めた。


魔王の闘いは軍隊での闘いとステータスでの闘いだ。スキルが制限される反面魔王は反則級のステータスを持つ。


だから秋斗は、特殊効果よりも能力値強化を取るべきだと考えた。付け焼き刃の能力ではなく、他を圧倒するステータスと適正なスキルの選択こそが王道、いや、”魔王道”なのだと。


中でも、割合強化の能力がいい。

ステータスはDPがかかるが、いくらでも上がるのだ。長く使い続けられない固定地強化より成長と共に効果が増える割合強化が良い。


装備は全て、性能不足で使えなくなれば配下に流せばいいだけだ。


ちら、と、俺を囲むスケルトンの軍隊を見た。


「眷属たちの装備も整えないとな…………」

スケルトンジェネラルでも大した装備は持っていない。ただのスケルトンに至っては、酷いものでボロボロの剣、曲がった槍、小さな槌、木の鍬、錆びた草刈鎌にラッパ…………


「……おい待て」


秋斗の言葉に、スケルトンの動きが止まる。

思わず出てしまった言葉だったが、止まったならちょうどいいとばかりに、秋斗はスケルトンのステータスを覗き見ていく。


「【剣術】、【槍術】、【短剣術】、【料理】、【剣術】、【剣術】、【農業】、【槍術】、【鍛治】、【演奏】、【弓術】、【錬金術】…………なんだコレ」


Gランクスケルトン。

装備によってスキルや職業が違うのだろうとは思っていたが、生産系もあったのか。


《”スケルトンナイト”等、種族名の1部が職業を表す種は職業が固定された状態で召喚されますが、”スケルトン”等、種族名に職業関連の単語が入らない種は、一定の確率で様々な職業を持って召喚されます。その確率は、自然発生時の各職業の保有確率に一致します》


マジか。モンスター殲滅部隊にも結構な数の非戦闘員が居るかもしれないということか。

……まぁそこら辺はジェネラル達が対応してくれていると信じよう。頑張れ将軍。

うちの部隊の将軍も、恐らく「なんで非戦闘員連れてくんだろ」と首を傾げながらも生産系職業のものを陣形の中心部に配置している。


生産職は落し物の売却に頼らないDP稼ぎが出来るので、多く確保しておきたいところだ。

帰ったらまた、スケルトンを大量に召喚するか。


道中自分が戦うことはないだろうとスキルを返して歩く事10分程……いや、近いな。戦いも起こらなかったし、スキル返す必要はなかったな。


「止まれ。着いたぞ」


さて、とりあえず目下の課題は、3mの塀に覆われたこの家に200体のスケルトンをどう入れるか、という事なんだが……


壊そうか。


ここもどうせ、いずれは俺のダンジョンになる土地だ。もしまだ誰かが住んで居るなら申し訳ないことだが、今更辞める気は無い。


ダンジョン化は人助けでもある。


今現在、土地や家の所有権は非常に曖昧だ。

所有権の所在は明らかでも、モンスターなど法が届かない存在に占拠されていればそれは諦めるしかないだろう。

誰も使わないなら俺が貰おう。その代わりそこに住む人は、彼等が俺の害にならない限り助けるが、勿論見返りを頂戴する。


俺が提供できるのはショップ産の物品と安全と平穏。

そしてそれは、俺にしか提供出来ず、俺の意思でいつでも手を引くことが出来る。


さらに言えば、彼等は俺の提案を受け入れる以外の選択肢を持たないのだ。


老人。子供。妊婦。怪我人。

モンスターから守らなければならない。

食料を探さなければならない。

怪我を負えばどうする?

病気をすればどうする?


避難民かれらには到底対処できまい。



人類の叡智は育ち過ぎたのだ。


それは良い事ではあるが、その超効率の技術は前提を崩されると酷く脆い。


従来の”広く浅い”か”狭く深い”しか無かった最先端は今、広く広く、深く深い。


広すぎる規模。

深すぎる技術。


それを扱う技術者、整備士、研究者、施設の管理人、警備員、莫大な維持費。


全て、超規模である事を前提としている。


冷蔵庫も風呂もトイレも、電線が走っていることを前提としている。

パソコンやスマホの普及とともに1つの巨大な分野として台頭しつつあったネット分野も、日本はおろか全世界的に通信網が巡ることを前提としている。勿論それ自体に”電気”という前提がある。


その前提を支える発電所は今どうなっている?変電所は?電柱は倒れていないか?浄水槽は機能しているのか?取水施設は?導水管は?水源はどうなっている?電波塔は?衛星は?


2日前までの俺たちの生活は、超規模の大技術と完璧性の上に立っていた。が、どこかひとつでも狂えば意味をなさないインフラストラクチャーという精密機械を修理する人間は居なくなった。

100年なかった危険生物の襲来によって。


徹底した分業化により、都市部の食糧生産はその人口を考えれば無に等しい。物流が途絶えれば食料は消える。



断言しよう。


失われたインフラ、失われた安全、失われた食卓。


皆、俺に従わざるを得なくなる。

機嫌を損ねればまたあの生活に逆戻りか、と考えれば叛逆する気にもならんだろう。


なら脅して良いように使ってやろう…………


それも無理。


「塀を破壊しろ。内部のモンスターを殲滅する。……やれ!」


魔王には軍が着いている。

さらに────


「【剣術】を寄越せ、スケルトンナイト」


バゴッと豪快な音を立てて20メートルほどにわたり崩れた塀を、異形の軍勢が悠々と通過した。


「それから……ははっ!そうだ!【火魔法】!【火魔法】を寄越せ!スケルトンメイジ!」


────魔王自体の戦闘能力も、馬鹿に出来ないのだから。


「コアは地下だ!階段を探せ!」



待ち受けるのは協力関係とは名ばかりの、絶対的上下関係。


それは例えるならば、”神”と”人間”の関係に似ているだろう。



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