091.パーティ後

「本日は、我が学園を卒業する者たちのためにお出でいただきありがとう。これから皆はそれぞれの道に進んでいくのだけれど、この学園での生活を忘れないでね」


 パーティの始まりが王妃殿下のお言葉なら、終わりもまた同じなんだよな。何かえらくフランクな言葉遣いになってるけれど、あれもしかして素か。いや、そっちのほうが親しみやすくていいぞ、王妃様。

 で、お開きとなったパーティ会場からは、家格が高い順に卒業生とその招待客がぞろぞろと退室していく。うちは伯爵家だから、程々に待っているとそのうち順番が来るんだよな。

 ふと会場内を見ると、ランディアが何か疲れた状態でぐったり壁にもたれていた。ポルカがうまいこと隠してるから、気にしなければ何ということはないっぽい。


「ランディア様も大変ですねえ」

「あれは、何か尋ねられたのかしら」


 アリッサと顔を見合わせながら首をひねる。……普通はシャナキュラス家の顛末関係なんだろうけどさ、それにしてはポルカがのんびりしてるから。いくら何でも、ランディアを傷つけるようなことを尋ねられて彼女がおとなしくしているとは思えない。


「あれ、結婚前提のお付き合いの申込みがやたら来たみたいですよ。ランディア嬢」

『はい?』


 しれっとマルカが事実を教えてくれて、思わず声がアリッサとハモった。さすが主従、自分だけど……じゃなくって。

 つーかなぜランディアに……ってところで思い出した。結局彼女、ロザリッタ公爵家の世話になるんだよな。


「つまりアレですか。公爵家の養女かつ実家がアレなんで、美味い汁吸いたがる愚か者の方々がわんさかと」

「アリッサ、言葉遣いがちょっと問題ですわよ。気持ちはすっごくわかりますが」

「俺も同感ですねー」


 公爵家とのつながりを、あちこちの貴族が求めてる。ランディアはロザリッタ家の養女待遇になるらしく、要は公爵家の娘扱いってことになる。ただし本当の実家はアレ。

 だから、ランディアは今後結婚相手を見つけるのが難しかろう、ならばうちが引き取ってやるぜゲヘヘ、というのが多数近づいてきたわけか。そりゃ疲れるわ。あとポルカ、さすがに表面上好意で接してくる相手だろうしなあ、殴れないよなあ、うん。


「ロザリッタの迎えが来ているようだから、彼女たちは大丈夫だよ。それと、近づいてきた連中は多分、ポルカ嬢が覚えているだろうからね」

「……ロザリッタのご当主の胸一つってことですか」


 ダニエルがひそひそと教えてくれたことで、なんとなくホッとした。いや、ヴァレッタが好意で受け入れてくれたんだとしてもロザリッタの当主までそうか、ってのは俺にはわからないしな。でも、ランディアを守ってやってくれよ。




 そんなこんなで、伯爵家の者が退出する時間となった。兄上たちは案内とかそっちの方に手を取られてて、さすがにこっちには来てないな。ダニエルとアリッサがいるから、俺は平気なんだけど。


「今夜は別邸に戻るんだろう? 送るよ。アリッサ嬢も」

「ありがとうございます、ダニエル様」


 ごく当たり前のこととして、ダニエルは俺たちを送ってくれるつもりだ。まあ、歩いて帰れない距離じゃないけどさ、夜だし一応女の子だし。卒業パーティ後に浮かれてえらいことになった学生の例、男女ともにないわけではないし。


「あら。わたくしはお邪魔なのではありませんか?」

「まだ婚約者、だからね」


 アリッサの言葉は、気を使ったと言うよりは……んー何だろう、やっぱり気を使ったのかね? よくわからん。それに対するダニエルの答えは、この世界の貴族としては割と普通のものなんだけどね。


「夫婦となる前に夜を友に過ごすなんて、などとお話される口さがない方々を牽制しなくてはいけないから」

「なるほど。では、素直にお世話になりますわ。もちろん、マルカ様も来られますのよね?」

「俺はダニエル様付きなんだから、当然さ」


 おや。アリッサってば、普通にマルカを気にしてる感じだな。いや、別にお付き同士がくっついても何の問題もないし。

 ダニエルにマルカが、俺にアリッサがついててくれるなら、とっても心強いしな。

 さ、ゆっくり帰ろうか。いい加減、疲れたしなあ。

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