077.処刑の後

 数日後、処刑が行われた。

 バンビーノだけでなく、今まで捕まってた使用人たちのうちやったことが酷い奴らも一緒にだったので、六人くらいだったな。その他のやつは証言引っ張り出されたり労働刑として大変なところで働かされたりと、いろいろらしい。あんまり、表に出てくる話じゃないんでこれ全部噂だけど。

 でまあ、一応被害者ということで俺とアリッサ、フィーデルが列席した。見せしめの意味もある処刑なんで見物人が多かったんだけど、俺たちはそこから見えない場所に席が用意された。

 ランディア、とポルカは来てなかった。ランディアの落ち込みが酷くて、さすがに無理だったらしい。ポルカはランディアのおつきだしな、一緒にいたほうがいいだろってことか。


「ランディア様が列席されなくてよかったです」

「あの凹みようではね……処刑を目の当たりにされても、気が晴れることはないでしょうし」


 で、今処刑が終わって人もはけたんで、俺たちも帰るところである。あのバンビーノってやつ、最後の最後までシャナキュラス呪ってやがったよ。今の俺にはとてもとても口にできない罵詈雑言、前世で言うところの放送禁止用語ってやつ……多分。いやだって、貴族の家で放送禁止用語なんて聞く機会ねーもん。だから俺にははっきりわからんけど、かなりの人たちが顔潜めてたから多分。


「最後まで反省しなかったな、あいつ」

「中途半端に反省されましてもね……」

「ま、そうか」


 一緒に見ていたフィーデルが、頭の後ろで腕を組みつつ呆れたように吐き捨てる。でも、アリッサの言う通りあんなところで反省されても処刑がなくなるわけじゃなし、だったら最後まで悪役でいてくれたほうが良かったかな、とはちょっと思った。

 ……あれ、なんか見覚えのある人がこっちに向かってきた。というか、ガレルじゃねえか。


「フィーデル。来ていたのか」

「ガレル様!」

「まあ、ガレル小隊長。こんにちは」

「これはナルハ殿、アリッサ殿も。お久しゅう」


 そうだよなあ、フィーデルの後見だもんなあ。見かけたらそりゃ来るわ。で、俺たちも知り合いだし当然ご挨拶。

 そっか、多分さっきの処刑の警備についてたんだろうな。兄上たちは……いてねえな、珍しい。別の任務かな。


「やはり、見物に?」

「ランディア様が学園の寮でお休みですので、わたくしたちが代わりに見届けに参りました」

「そうか」


 ここにいる理由を問われたので、アリッサがきちんと答えてくれる。ランディアのことはサラッと言っただけだけど、ガレルはちゃんとその意味を汲み取ってくれたみたいだ。少し、表情が沈んでる。


「ランディア嬢は、心を痛めておられるのかな」

「さすがに、ご自身も世話になったことのある相手ですしね」

「シャナキュラスの使用人もいたからな……当主夫妻のこともあるし、なるほど」


 シャナキュラス当主夫妻。まあつまりランディアの両親なんだけど、なんだかんだでケッショ、とかいう処分となった。領地お取り上げ、である。夫人の方は既にとっ捕まってるわけで、当主の方を領地から叩き出す部隊が向かってるとのこと。

 カロンドは古い家かつ王家が恩がある家、という少々めんどくさい家柄なので潰すにも手間だったらしいけれど、シャナキュラスに関してはいい加減王家もブチギレた模様。領地はそのまま王家直属領になるんだとさ。


「まあしかし、これでシャナキュラスとカロンドに関する問題については一応の幕引きとなる。……中途半端だがな」

「仕方がありませんわ。貴族の問題はいろいろありますし」

「ランディア嬢に関しては、先だっての約定通りロザリッタ家預かりのままだから安心されよ。おそらくあちらの当主夫妻、娘が増えると大喜びしているだろうな」


 うんまあ、ランディアだけ無事ならいいや。失礼かもしれないけど、こういろいろあったせいで彼女の親については好意も興味も同情もまったく持てねえし。

 ……ん? シャナキュラスとカロンド、については?


「……スーロード家については、未だに?」

「動きがないらしい。領民は脱出するものが跡を絶たないようだが、年寄りや子供を抱えた者などはなかなか動けないようだし」


 思わず尋ねてみると、ガレルは軽く首を振った。まだ頑張ってたか! もう何ヶ月になると思ってんだよ!

 ていうか、領民逃げ出してるってことは全力で後がないんじゃないか? 何やってんだ、スーロードも派遣部隊も。確か追加派遣されてたはずだよな?


「交渉も進んでないんですか?」

「対話自体はあるようだがな。おかげで一部には、国外脱出までの引き伸ばしなんじゃねえかって噂も出てきてる」

「ひどく時間がかかりますのね」

「持ってる財産、運び出してんじゃないすか?」


 ガレルの言葉にアリッサが眉をひそめ、フィーデルがぶっちゃける。あーうん、多分どこかに持ち出してるよな、金とか宝石とかほかいろいろ。土地と家は持っていけないし。


「そうかもしれんな。……王都からではどうしても、情報が遅くなってしまうからな。伝書蛇でも片道二日以上かかる距離だ」

「面倒ですね」


 ガレルが顔を歪めるのも分かるなあ。片道二日のタイムラグって、結構でかいもんな。

 その間に状況ががらっと変化していても、全くおかしくないわけだし。

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