076.その後どうなった

 無事に年が明けて、学園が再開して、一ヶ月。

 ランディアが、べっこり凹んだ顔で言ってきた。


「バンビーノは処刑される、と近衛隊を通じて通達をいただきました」

「まあ」


 ああうん、シャナキュラスの元使用人だからね。その関係で、ランディアのところに通達が行ったらしい。でもまあ、知った顔が処刑とか、やっぱり凹むよなあ。

 つーても、処刑か。さすがに俺とかランディアとかが怪我したりしてたらわからんでもないが、実際はアリッサや兄上やダニエルにフルボッコにされたわけだしなあ。


「まあ、王家の足元で貴族の娘に手をかけようとした犯罪者、ですが……少し厳しすぎるのではありませんか?」

「見せしめらしいですよー。王家の目の届くところで良からぬ事を考えている愚か者が、どうなるかっていう」


 めっきょり沈んでいるランディアの代わりに、ポルカが説明してくれた。あーあーあー、最近平穏だったもんなあ。たまにはこういう見せしめもしっかりやろうって、それもどうなんだろうな王家。いや、口に出して言ったりしないけどなそんなセリフ。


「かつて仕えた主家に牙を向けた愚か者、ということでまあ、シャナキュラスにはできるだけ影響がないようにするのでしょうね」

「……今更ですわ。母の愚かさが故に、既に地に落ちた家名ですもの」


 アリッサの言葉を受け取りつつも、ランディアはそのままべしゃっと机に突っ伏した。おいここ俺の席……いや、今朝礼前だしいいけど。

 けどまあ、これで一応王都に潜んだ元使用人問題はケリがついたと思っていいわけだ。あとは……おお、兄貴が自爆したせいで跡継ぎになった次男がやってきたぜ、カロンドの。


「おはよー。……あれ、ランディア様どしたん?」

「ああ、元使用人が処刑されると通達が来たので凹んでますー」

「年末に襲ってきたやつ? いや、凹むなよ。ランディア様やナルハ様が無事で良かったじゃねえか」

「……は、はあ」


 フィーデルの方もなんかいろいろあったとかなかったとか噂が来てるけど、本人がずっとこの調子なんで分からないんだよねえ。兄上やダニエルも特に何も知らないみたいだし、ということはフィーデルの後見になったガレルでも知らないか、そこで止めてるか、か。


「カロンド家の方は、落ち着かれたのですか? フィーデル様」

「んー?」


 そんなことを考えている俺をよそに、アリッサが尋ねた。引っ越しやら跡継ぎに関する手続きやらいろいろあるらしくて、どっちみち大変なんだよねえ。


「ま、何とかな。兄貴たちに仕えてた使用人のうち、まともな連中が何人か残ってくれたんでどうにか回ってるっつーか」


 で、その大変な当事者であるはずのフィーデルは、相変わらず飄々とした顔でそんなふうに答える。そっか、ちゃんとした使用人が残ってくれてるのか。そりゃ良かった。


「お家の財政や、領地についてはどうしても、そういった者の力が必要になりますものね。セファイアでも、古くからいる爺がよくやってくれてましたから」

「まーね。つか兄貴たち、年貢多めにとってやがんの。そりゃ贅沢できるよなあ」

「まあ」


 っておいおいおい、何さらっとえらいこと言ってんの。年貢多めにって、王家に収める分と自分とこで取る分以外に上乗せしてたってことかよ。

 ……いや、その分てめえの懐にしまい込んでやがったわけだな、バカンダ。


「そこら辺は王城に素直に申告したから、あいつらどうなるだろうなあ。俺は貧乏暮らし慣れてるからいいけどさ」

「え?」


 さらにおいおいおい、いや隠しとくつもりならこんなところでぶっちゃけないだろうけどさ。

 まあ、バカンダ……とその父親には何らかの罰が適用されるだろうとして、問題はカロンドの家を継ぐことになるフィーデルだと思うんだが。要するに年貢とりすぎたんだから、返してやれとか言われてもおかしくないんだぞ?


「過剰徴収分を返却、なんて命令が出たらどうなさるおつもりですの? 破産しかねませんわよ!」

「ある程度は、レオパルド家がフォローしてくれるっつってるんだけど……さすがに迷惑はかけらんねえなあ」


 バンビーノのことが見事に吹き飛んだらしく、がばっと跳ね起きたランディアが思わず詰め寄ってる。それに対するフィーデルの顔にまるで変化がないのが、経験の差ってやつだなーと思った。つか、ガレルの家、フォローしてくれるつもりなんだ。


「ま、なんとかなるさ」

「なんとかなる、って……」

「おふくろの身の安全だけ保証してくれりゃ、なんとかするよ。俺の親父と兄貴が馬鹿やった結果だしな」


 とはいえ、あっさり責任背負うと明言しやがったこの友人に俺たちは、ぽかーんと口半開きにするしかなかったな。いや、お行儀悪いの何のって。

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