061.身柄はどうなった

 そうして、数日たった。ランディアもフィーデルも、普段どおり学園で授業を受けて寮生活を続けている。

 彼らの取り扱いについて、決定まで少し時間がかかった。貴族子女の身柄扱いっていろいろあるんだよね、王城内での会議やら交渉やら認可やら。主に交渉がでかいらしく、ヴァレッタの父上……つまりロザリッタの当主はある種の飲み会を催したらしい。

 で、いずれも今日決定した。そのことを報告に、兄上と別邸で落ち合う。兄上の部屋でゲイルやアリッサ、メイドさんたちにも席を外してもらって、ガチで二人きりで話をすることになった。


「フィーデル殿がレオパルド家預かりになったんだよね。卒業までしっかり学問を学んで、卒業後はガレル小隊長の側近として近衛隊への入隊を目指してもらうそうだ」

「まあ。それは良かったですわ」


 すると、二人はそれぞれ別の家に預かってもらうことになったわけか。目指してもらう、ってことはガレルが話してたのを聞いたわけだな。

 良かったなフィーデル。レオパルド家の後見もあることだし、しっかりやれば出世街道に乗れるぞ。ま、まずは学園でのお勉強だけどさ。


「ランディア様はロザリッタ家預かりということで、ヴァレッタ様のお付きみたいな感じになりましたわね」


 そういうわけで、俺からも報告。これはヴァレッタから直接聞いたので確実だ。

 厳密に言うとランディアは、ロザリッタ家で行儀見習いというかそういう扱いで預かってもらうことになった。シャナキュラスの今後如何によっては養女にしてもいいよー、とロザリッタのご当主夫妻がおっしゃったそうで。ヴァレッタ曰く、ランディアみたいなタイプは家族にいないんだそうだ。何だそれ、珍獣扱いか?

 ま、扱いはともかくとしてこっちも良かったじゃねえか、ランディア。もしかしたら公爵家の娘になれるかもしれないし、そうしたら結構未来は明るい。こういう世界の場合、女の明るい未来って基本的には嫁ぎ先がいいところって意味だけど。


「ポルカ嬢も、かなり気が楽になったかな?」

「そう思われます?」

「違うのかい?」


 ポルカについては、兄上はよく理解しておられないようだった。というか、ランディアについてだな。

 多分これは、ダニエルなら分かってくれると思う。ダニエルは何だかんだでランディアにまとわりつかれてたから、それについてくるポルカについてもそこそこ理解はあるはずだ。

 さて、現在のランディアの様子は、俺しか教えてやれない。ので、きっぱり伝えよう。


「ランディア様ですから、相変わらずわたしのところにちょっかいを出しに来られるのですよ」

「おやおや」


 実はそう。教室でも何かとナルハ様ナルハ様、宿題なさいましたかとか先ほどの課題についてとかお昼ご飯がどうとかこう、細々とおいでになるんである。その背後でポルカは、苦笑しながらおとなしくお供をしているんだよね。アリッサも呆れてたよ、おとなしくヴァレッタ様についていけって。当のヴァレッタはあらあら楽しそう、とにこにこ笑ってるだけなんだが。


「ということはナルハ、すっかりランディア嬢に好かれたみたいだねえ」

「ま、まあ」


 うんまあ、現場見てようが見ていまいがそういう結論になるよなあ。俺自身の感覚から言っても、前より当たりが柔らかくなってるし。好かれたのなら、良いのかもしれないな。


「そうですね……嫌われて突っかかられるよりは、気分が楽です」

「だろう? 仲の良い友人が増えた、ということなんだから、気を楽に持ったほうがいいよ。ポルカ嬢もついているみたいだし」

「はい」


 そうだな。ランディアが仲の良い友人、のくくりに入るかどうかはともかく、悪いことではない。


「……で」


 そんなことを考えていた俺の前で、ふと兄上の声色が変化した。これは、兄上というより。


「相変わらず、中身はおにーちゃん?」


 久しぶりに聞いた、鳴霞としての言葉だった。

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