060.身柄はどうしよう

「ほんっとうに! うちの馬鹿兄貴がすんませんでした!」

「お手数をおかけしました!」


 翌朝普通に登校し、教室で席についたところでフィーデルとランディアにほぼ同時に頭を下げられた。その後ろでポルカが呆れ顔のまま、軽く髪を掻いている。まあ、気持ちはわかるぞポルカ。見ろ、教室中から注目浴びまくってるじゃねえか。


「いえ、お二方に頭を下げていただく理由はございませんから」

「いや、だけど」

「ですが!」


 うんまあ、それぞれの実家やら何やらがこっちに迷惑かけてきたんだもんな、そりゃ謝るか。けれど、カロンドにしろシャナキュラスの事情にしろ、学園を卒業していない……つまりまだ成人とは認められない、子供の二人が謝る理由にはならないぞ。


「フィーデル様。カロンドの……バウンダ様でしたか、ご当主の嫡男ともあろうお方がなさる行動ではございませんでしたが、それはフィーデル様の責任ではありませんよね?」

「なんで兄上の暴走の責任を、離れて暮らしてる弟が取らなきゃいけないんですか。普通は一緒に住んでおられる親御さんでしょうが」

「そう言われると、そうなんだけどよ」


 アリッサも協力してくれて、ぶっちゃけてみた。要はカロンド当主夫妻に責任を押し付け……いや、あのバカンダの両親なんだから当然責任もってもらわねえとな。いやほんとに。


「それとランディア様。ままある話ではありますが今回の場合、少なくともランディア様が責任を負わされることはないはずですわね?」

「……お母様が、逃げてしまわれたので……」

「それはカロンド男爵夫人の問題であり、ランディア様の問題ではございません」


 ランディアの方は……つまるところ頼りにしてた母親に捨てられたわけで、凹み具合は半端ない。つっても、いくら何でもシャナキュラスの家の事情だからな。親戚でもない、俺が口を挟むことじゃない。


「それに、そちらに関しては確か、王城から部隊が派遣されたそうですね。あとは、彼らにお任せしたほうが良いかと存じます」

「ですから、ランディア様はしばらくの間学園にとどまられたほうがよろしいかと。フィーデル様もそうですけれど」


 口を挟んできてくれたアリッサとともに、二人にそう声をかける。フィーデルもランディアも、「分かりました」と頷いてくれた。

 あ、そうそう。手紙を送ってくれたポルカに、お礼は言っておかないとな。ちなみに兄上たちが当の手紙を持っていってくれたおかげで、今ランディアの身柄は学園預かりとか何とか。学生だしな。


「ポルカ様。お手紙、ありがとうございました」

「いいえー。居心地の良い仕事場がなくなるのは嫌でしたから」

「なるほど」


 そうか、ポルカにとってはランディアのお付きは居心地が良い職場なわけだ。ランディア自身、そこまで性格悪いわけじゃないしなあ。


「……理解のされ方にはいまいち納得がいきませんが……まあ、ポルカのおかげでいろいろとわたくしには良い方向に進んでいるのですわね。ありがとう」

「はーい」


 と、その俺の思考をランディアはよくわからなかったみたいだけど。でも、ポルカにお礼を言ってくれたのはほっとした。お互い、結構仲のいい主従だよなあ。俺とアリッサは……どうなんだろ? 何と言うか、漫才コンビみたいな感じになってる気がするけど。


「フィーデル様、ランディア様」


 不意に、声が上がった。ヴァレッタが、にこにこ笑顔でこちらを見ている。


「何でしたら、お二方の後見にとわたくしの父が申しておりますが。いかが致しましょうか?」

「ロザリッタのご当主様が?」


 おー。ロザリッタ公爵家が、二人の後見人になってくれるかもしれないのか。ああでも、他にも後見人候補の話は来てるんだよなあ。それも同じく、公爵家が。


「あー、レオパルドのご当主様も手を上げておられるらしいですよ。まあ、お二方は仲が悪いわけでもないですし、お話なさればよろしいのではないでしょうか」


 すっと手を上げて、アリッサがその話を持ち出してくれた。

 ああうん、そうなんだよね。ガレルの家も、二人のことを気にしてくれててその話を兄上経由で持ってきたわけ。二つの家で、ちゃんと話し合えばなんとかなるだろ。二人いるんだから、一人ずつ引き受けてくれてもいいわけだしな。


「まあ。そういうことでしたら、父に伝えておきますわ。そのうち一緒に酒を飲みたい、とかおっしゃっておりましたし」


 にこにこ笑って、ヴァレッタはそんなことを言ってきた。

 ああ、つまり酒飲み友達なのなロザリッタ公爵とレオパルド公爵。きっとめちゃくちゃ高い酒とツマミでやるんだろうなあ、公爵同士だとさ。

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