042.書類作りは疲れた

 三日後。

 うんうんうなりつつアリッサと一緒に何とか書き上げた報告書を、俺たちは学園長室まで持っていった。授業は翌日からあっさり再開されて、その傍らだぜ。あーめんどくさかった……フィーデルはどうだったんだろうな?


「はい、よろしいでしょう」

「ありがとうございます」


 俺とアリッサの報告書にざっと目を通して、学園長は満足そうに笑みを見せた。おお、あれで良かったらしいな。二人で文章を必死に考えまくった甲斐があった、というもんである。あ、内容に嘘はついてないからな?


「先ほど、フィーデル・カロンドも報告書を提出に来ました。これで全員分揃いましたので、王城に提出しましょう」


 そう言って学園長は、俺たちの報告書を紙の束の一番上に置いた。てか、月刊雑誌くらいの厚みがないか? この束。


「多いですね?」

「他の学生にも、聞き取りや調書の作成を行いましたからね。カロンド男爵家、スーロード伯爵家へくだされる処分の参考資料、ですから」

「なるほど。第三者からの感想も必要だと」

「そのほうが、公正に物事を判断できますからね」


 ふむ、アリッサの言うとおりか。というか、巻き込まれた他の皆、ご愁傷さまでした。いやほんと、何でアマンダさん、あんなに暴走ぶっこいたかなあ。

 あと学園長、何というか嬉々としてカロンドとスーロード追放に向けて動いてないかな。……何とかして、聞いてみるかな。小説か何かで見たやり方、いけるかな。


「……これは独り言なのですが。もしかして王城側では、最初からカロンドやスーロードに厳しい処分をくだされるおつもりだったのでしょうか……」

「……」


 一瞬、室内の空気が固まった気がした。アリッサ、眼鏡の向こうから丸い目でこっち見んな。

 一方学園長の方は……さすがにすぐに意図を理解してくれたらしく、「あくまでも、独り言です」と前置きをして答えてくれた。


「過去のたった一つの栄光にすがって何もしない家や、しょうもない理由で縁組を引っ掻き回すような家は王国には不要でしょうねえ。それも、何度も繰り返すような家は」


 ああ、ちょうどいいからこれを理由に厄介払いしたれとか考えてたのね、王家の偉い人たち。いやまあ、貴族の端っこにああいうのがいたらその、何だ、我が国の品位が問われるとかそういうやつ。貴族とか王族とか言っても、いろいろ大変なんだよな。家も貴族だしな、一応。


「ふふ、わたくしは独り言しか申しておりませんわ。お気になさらず」

「わたしも、独り言を申しておりました。失礼いたしました」


 学園長と、お互いにこやかに笑い合って独り言は終了。アリッサはその間、見事に固まっていた。それでも視線がせわしなくあちこち見てたのは、多分周囲の警戒だったんだろうなあ。ごめん、面倒掛けたかも。


「では、以後このことは必要なくば口外せぬよう」

「分かりました。それでは、失礼いたします」


 まあ、そういう事もあって学園長とのお話はそこで終わった。報告書がどうなるかは、俺たちの知ったことじゃないからな。学園長、頼みましたよー。




 で、授業の後だったのでそのまま寮の自室まで戻って……俺とアリッサは、同時にはあああああああとなっがーいため息をついた。


「き、緊張しましたわ……」

「わたくしもです。ナルハ様」

「そうね……いきなり独り言とか、変な話に持ち込んでしまってごめんなさいね」

「いえ、構いません。……直接あのような会話をしてしまっては、問題ありと判断される可能性がありますから」


 そうなんだよねえ。一応王国だし、不敬罪が存在するんだよねこの国。まあ、王家の考えとかは分からないけどさっきの俺のセリフ、万が一俺がカロンドやスーロードの処分を望んでないとか思われてたら俺はある意味不満分子に取られるわけだ。

 めんどくせえ。ダニエルの嫁になってクライズの家の中でドタバタやってるほうが、気が楽だよきっと。

 ただ、まだ嫁には行ってないので一番気が楽なのは、グラントールの家か別邸か、だ。

 ……そうだ、そうしよう。


「週末は、別邸でのんびりしましょうか。身内だけの方が、リラックスできますわ」

「同感です。では、早速手配の方を」

「お願いしますね、アリッサ」


 うん、何も考えずに家でのほほんとしてよう。決めた。

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