031.成立
「……悪くはねえ話だな」
「そうでしょう?」
「ああ」
兄上とダニエルに仕える気はないか。
端的にそう伝えると、フィーデルは少し考えてから頷いてくれた。カロンド本家や、スーロード家を相手にしたゴタゴタに、向こう側として巻き込まれるのはさすがに嫌だったらしい。まあ分かる。主に、うちの兄上とかダニエルとか、あとアリッサとか見てたらな。
「んで、少なくともおふくろには悪いようにはならない……よな?」
「フィーデル様のお母上、ですか。ええ、もちろん」
その申し出は、フィーデルから出された条件なんだよな。味方になるから自分の母親を守ってくれ、という。
くっそいいやつだなこいつ。何でカロンドはこいつを家の外に出したんだ……ああ、正妻と馬鹿嫡男のせいか。どちらも本人知らないけど、多分そう。
「というより、大切なお身内をお守りするのは最重要事項でしょう?」
「まあな」
アリッサの言うように、誰かを巻き込むならその当人や身内の安全を守るのはこちらの義務、最重要事項よね。何しろあちらがフィーデルに言うことを聞かせたいなら、彼の母親を抑えればいいわけだから。
……といっても、今彼らが住んでいるのは王都にあるカロンドの別邸のはず。そのうち、別の場所に移さなくちゃいけないかしら。兄上に相談してみよう、うん。
「ま、認知されて王都の家使わせてもらってるだけで、実質放り出されてるのと変わらないからな。少なくともおふくろの安全だけ担保してくれれば、俺はそっちにつくぜ」
「ありがとうございます。ただ、表向きは今まで通りに」
そう言ってくれて、こっちは助かる。でも、カロンド側にバレたら情報も伝わってこないしフィーデルの母親の身に何が起きるかわからないからな。念のため、釘を刺しておこう。
「だよなあ。カロンドとスーロードの情報は、俺からでないとうまく取れねえだろうし」
「ご理解が早くて助かりますわ、フィーデル様。ナルハ様、良い味方を得ましたね」
「本当ね」
すげえ、こっちの言いたいことちゃんと分かってくれてる。いや、これマジで良い味方だよなあ。……裏があったらまずいけど、そのへんは兄上たちに任せることにする。俺が動いたら、何かバレそうでヤダ。
なんてこと考えてたら、フィーデルは「というか、さ」とぺろっと舌を出した。
「実のところ、カロンド本家からはナルハ様たちの情報取ってこい、ってせっつかれてんだよなあ。考えることは皆一緒、ってこと」
「なるほど。共に学んでいるのであれば、話もしましょうということですわね」
ああ、そもそもはこっち側の情報を取らせるつもりだったわけか、カロンドとスーロード。自分ちの者だから、命令すれば言うことを聞くって考えてるんだな。
……普通なら、そうなんだろうなと思う。ただそれは、家がちゃんとしてる場合だ。もしくは家がおかしくても、そこに使われる自分も同じようにおかしい場合。
フィーデルは、そうじゃなかっただけだ。
「でも結局さ、そんなんで大して情報なんて取れねえだろ? 相手は立派な婚約者がいるんだし、お付きだってめっちゃ強いわけで」
「ご実家のほうがきちんと裏を取るなり追加調査するなりしてくだされば、フィーデル様に命じた意味はあるのですけれど」
「でもカロンド、それしなさそうですよねえ。ナルハ様としっかりお話して、さらなる情報仕入れてこいとか言いそうです」
アリッサ、めっちゃ辛辣だなお前。男爵夫人がしっかりしてるなら、自分の実家に頼んでちゃんと調べそうなもんだけど。
……それはやるかもしれないな。うわあ、フィーデルの母上、早めに保護してもらおう。
「スーロード家の方が、きちんとお仕事なさるかもしれませんわね」
「でもそれ、俺から本家に情報行ってそこから正妻が実家に頼むってことだろ。時間かかるぜ」
「確かに。ですが、やらないよりはマシですわよ」
俺の前世と違って、通信には時間がかかる。インターネットどころか電話もないしな、この世界。多分一番早いのが伝書鳩……じゃねえや、この世界何故か翼生えた蛇が鳩の代わりしてんだよ。だから伝書蛇、あれが一番早い。
俺も一応一匹持ってるけど、あんまり使わないし今は別邸に置いてあるんだよなあ。学園に来てからは、学内での使用は基本的に禁止されてるから。近衛隊も、新入りの間は使えないらしいし。
「ま、そこらへんは俺がうまいことやるわ。あのめんどくさい親父と正妻相手に、それなりにやってきたしな」
「お疲れさまです。……お礼と言っては何ですが、ここの支払いはわたしが持ちますわよ」
「お、いいの?」
まあ、そのくらいならこっちだって持ってるし。だからそう言ったら、フィーデルは分かりやすくいたずらっ子みたいに笑った。
ああこいつ、良いやつだなあ。俺が鳴火のままだったら、絶対友人になってる。……今は女だから、あまり仲良くすると絶対誤解されるんだよなあめんどくせえ。
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