029.身内会議

「カロンドの庶子?」


 数日後、兄上とゲイルが荷物の取りまとめなどで家に戻ってきた。一緒にダニエルとマルカもやってきたということで、わたしたちも寮を出て昼食を家で共にすることにした。

 そのときに俺は、フィーデルの話を兄上たちにしてみた。あ、全員興味津々の顔をしてる。


「ナルハは、面白いところに目をつけてくるね」

「面白いですか?」


 相変わらず、ダニエルは完璧イケメンの笑顔を見せてくれる。ランディアにも渡さんけど、スーロードのちっこい子になんてもっと渡せるか。まったく。


「家よりも、当人の事情や環境を考えて俺たちに言ってきたんだろう? スカウトとしては、いい目を持っている」

「そりゃ、ナルハの人を見る目は確かだよ。何しろダニエル、お前にベタぼれだ」

「兄上っ」


 ダニエルに褒めてもらって嬉しいところに、何でか兄上がしっかり割り込んで来やがった。この辺、鳴霞時代よりも積極的じゃないか? ダニエルが自分の親友なのが大きいのかね、こいつ。


「本当のことだろう?」

「ナルハ様は本当に、ダニエル様に夢中ですものね。おそばで見ていてわたくし、むず痒いんですけど幸せですわ」


 兄上、確かに本当のことだけどさ。それとアリッサ、むず痒いって何だ。あー、顔が熱い。

 鳴火の記憶が出てくる前から、わたしはダニエルのことをとても好いている。それは、男である水上鳴火の意識が混じった今でもまるで変わっていない。

 しょうがねえだろ、ダニエルってほんとにいいやつなんだから。俺が鳴火のままここにいたら、真っ先に親友になってもらいたいやつだよ、うん。


「しかし、なるほど。カロンドの庶子を味方につけて、カロンド本家やスーロードを揺るがすのも面白そうだな」

「フィーデル殿本人も良い人物と聞いておりますし、味方にできれば後々こちらの利となりましょう」


 ……なんてことを俺が考えている間に、話は元に戻ってフィーデル周り関係。利益だ何だ、という話になってしまうのはまあ、しょうがないというか。

 兄上はグラントールの、ダニエルはクライズの、それぞれ家を継ぐ立場にある。この場合家の名前だけじゃなくて抱えてる領地と領民とか、王家からもらってる仕事とか自分の家で立ち上げた事業とか、いろいろなもんを継ぐわけだな。

 そういうもんを抱え込んで続けていくためには、当然出来の良い配下が必要になる。どうやらフィーデルは、その候補の一角に躍り出てくれたらしい。やったね、俺。


「ゲイル、お前自身としてはどうなんだ?」

「カロンドの嫡男と違い、母親から礼儀作法と庶民としてのものの見方を学んでいるという話は聞きます。貴族としての見方しかできない我らにとって、暴走のストッパーとなり得ましょう」

「領主になる可能性が高いからな、俺たちは」

「ふむ、領民の意見を汲み上げやすいか」


 へえ、ゲイルに話を聞くのか。マルカはダニエルの横で、うんうんとゲイルの言葉に頷いてる。マルカも、そんなに大きくない家の出だからものの見方はそっち寄り、なのか。

 ま、俺と兄上は鳴火と鳴霞の意識が入ったから、だいぶ庶民感覚取り戻してる……と思うんだがなあ。さて。


「マルカ。フィーデル・カロンドについて調査を頼む、それとカロンド本家についても」

「承知しました」

「ゲイルは、スーロードの近況について調査してくれ。小さなお嬢さんを、ダニエルに宛てがいたがってるらしいからな」

「はっ」


 けど、ダニエルも兄上もいきなり味方にしようとはせず、まずは下調べからだ。ゲイルもマルカも近衛隊の仕事あるだろうに、大変だなあ。それとも、側付きというか侍従に近い立ち位置だと仕事ゆるいのかな? そんなわけないか。


「ナルハ、アリッサ。君たちは、普通に学園生活を送ってほしい。家同士の利害関係から離れたところで作る友人も、今後には必要だよ」

「はい、分かりましたわ。ダニエル様」


 おっと、ダニエルに声をかけられると思わず笑顔で返事してしまうな。中身がナルハだけの頃からこうだったから……あーもー兄上、アリッサ、さっきあんたらが言ってたこと、確かにそうだよ。まいったな、もう。


「ナルハ様に害をなそうとする輩は、ぶっ飛ばしてよろしいのですよね?」

「そのための側付きだろう?」

「アリッサの手腕には、私は信頼を置いているからね。頼むよ」

「もちろんです」


 ……って、アリッサ、あんまり物騒なことを言わないでほしいよ。まあ、万が一何かあってもおかしくない立場、なんだろうけどさ。

 それとダニエル、兄上、それを当たり前のように答えないでくれ。一応、アリッサだって女の子なんだからな。いや、うちのクラスの男子どもより多分強いけど、アリッサ。

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