026.見物人
学園の校門前、大きな通りに人々が集っているのが見える。わたしたちは学園の敷地の中、花壇の縁や開かれた門から外を確認することにしましょう。
「来ましたよ」
「あれ、ですね」
……何で俺たち、ランディア主従と一緒にいるんだろうな。それはともかく、アリッサとポルカがほぼ同時に一点に視線を向ける。三列に並んだ近衛兵たちが、一糸乱れぬ行進を行っている様子がはっきり見えた。人前で行進する演習なのかしら?
「近衛隊だと目立ちますから、敵対勢力に自分たちがきっちりパトロールしているぞ、とアピールするためじゃないですかね」
「確かに、目立ちますものねえ」
いや、こんだけ派手な顔がまとめて歩いてたらそりゃ目立つだろ、とは鳴火としての感想だな。
兄上とダニエルは顔が見えなくても何というか、存在が目立つというかですぐ分かったんだが、それ以外の隊員たちも結構いい顔揃いだ。この世界、もしかしてもともとゲームか何かの世界だったりしねえか? 中にいる身としては、あんまり関係ないけどさ。
「あ」
ある意味一番目立つ、先頭の人。見たことある顔だよなー、うん。
「レオパルド小隊長ですわ。さすがは公爵家の御曹司、決まってらっしゃいますわね」
「レオパルド家の後継者、か……王族の次に高位、と言っても過言ではないお家柄ですよね」
「公爵家の中でも、権力のある一族ですし」
アリッサ、ランディア、ポルカがそれぞれ感心したように声を上げる。ランディア、あっちに鞍替えしたほうが良くね? 多分、お前さんのわがままっぷりも受け入れてもらえると思うぞ。
……そんな程度で人の心が変わるなら、そもそもナルハもダニエルも苦労してないけどな!
「あー、やっぱかっこいいなあ」
一方、男性陣は女性陣とは違う方向で関心の目を向けている。そりゃ、ある意味花形職業みたいなもんだからなあ、近衛隊ってさ。
もちろん、憧れてるだけならいいんだが実際に入れるか入れないか、となると話は別だ。
「俺は、近衛隊は見てるだけでいいなあ。入ったら大変そうだしさ」
「お前の場合、入る前から大変じゃないか?」
「ああ、それは言えるな」
ははは、とから笑いしたのはどっかの男爵家の次男坊だったな。婿入り先を探したいけど、家の格がいまいちなんでその前にいい仕事について箔つけたい、ってのはそういう立場の連中に共通らしい。
ゲイルみたいに、主を見つけて側付きとして働くのも一つの手、なんだがね。こういう身分はピラミッド構造、上に行くに従って数が少なくなるのでなかなか主は見つからない、なんてことがあるらしい。
そういう連中は、軍に入ったり役人になったりしてそれなりにちゃんと仕事すれば、まあ婿入り勧誘とかあるらしい。その中でも近衛隊はトップクラスなんだが、つまり。
「近衛隊は、入隊条件が厳しいですからねえ」
「三代前からの身分保証と、筆記及び実技の入隊試験でしたっけ」
さらっと、アリッサがその入隊条件を提示してくる。まあ、実兄のゲイルが当の近衛隊員でもあるしな。マルカもそうだけど、主が近衛隊に入るなら小姓、世話役としての入隊は認められるはずなんだけど……何であっさり正隊員として入っちゃうかな、あいつら。
というか、試験はともかく。
「身分保証、ですの?」
「王家のおそばに仕えるのですから、怪しい者は取り除かないと、ということですね」
ああ、そういうことか。ありがとうアリッサ。
そりゃ近衛隊、モテるわ。隊員になれた時点で、王家がそいつは怪しくないやつだ、って身分保証してることになるわけだからなあ。
「貴族は簡単ですけれど、平民の隊員の方もいらっしゃいますわよね」
「村々ごとに人別帳というのでしたか、住民の記録があるそうですから。そちらで証明書を頂いて、提出するのだそうです」
「なるほど」
アリッサは、俺というかナルハが疎いところにもきっちり詳しい。ほんと、側に仕えていてくれてありがたいとしか言いようがないな。というかナルハ、必要のない事柄なのかもしれないけどちょっとは勉強しとけよ……今からやるか、鳴火としてはちょっと面白そうだと思ってしまったし。
「ナルハ様、よそ見していてよろしいんですの?」
「え? あら」
ランディアの声に呼ばれて、慌てて視線を近衛隊の方に戻す。ちょうど、わたしたちの目の前を兄上とダニエルが通り過ぎていくところだった。視線がこっち向いてるのは分かるから、軽く手を振ってあげよう。
てかランディア、わざわざ俺を呼ばなくても良かったんじゃないか? 全くこいつは、鳴火として見たら可愛い子だよなあ。うん。
「ランディア様、教えてくださってありがとうございます」
「こ、このくらいはね」
なので御礼の言葉を口にしたら、顔真っ赤にして視線をそらした。
……もしかして、ランディアってベタベタなツンデレタイプか? ま、別に暴力に走るわけでもなし、地味に良い奴だしなあ。ダニエル狙うのさえやめてくれれば、仲良くしても問題ないんだけどな。
ところでアリッサ、ポルカ、なんで俺たちを楽しそうに見比べてんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます