みんなの想いを知ったが、応えていいのかわからない。――5

 夕方になり帰宅すると、出迎えてくれたメアリさんがペコリとお辞儀をした。


「お帰りなさいませ、ご主人さま」

「ただいまです、メアリさん。留守番ありがとうございます」


「はい」と目を細め、メアリさんが続ける。


「ご主人さま、お客人がいらしてますよ」

「お客さん?」

「はい。客間に通させていただきました」

「ありがとう、メアリさん」


 メアリさんに礼を言って客間に向かう。


 客間のドアを開けると、栗毛ポニーテールの女性が、メアリさんが出したと思われる紅茶を口にしていた。


 俺に気づいたその女性が、ニッコリ笑って手を振る。


「やあ、シルバくん。久しぶりだね」

「シェイラさん! お久しぶりです!」


 ワンとフィナルの抗争を止める際に協力した、王国騎士団団長、シェイラ・ダ・リヴェルトさんだ。


「相変わらずモテモテだね、シルバくん。そちらの子は新しい恋人かな?」

「こ……っ!?」


 シェイラさんのからかいに、俺は声を裏返させる。


「これで五人目。ここまでのハーレムを形成できるのは王侯貴族おうこうきぞくくらいじゃないかな? まったくもってジゴロだね、シルバくんは」

「きょ、今日はどのようなご用件でしょうか!?」


 堪らず、俺は無理矢理に話をらそうとする。


 慌てる俺にケラケラ笑ったあと、シェイラさんは顔つきを真剣なものにした。


「エスピーノ王国から報告があったんだ――『ミリー・フランチェッカが証言をはじめた』とね」

「ミリー・フランチェッカ?」

「ハ、ハウトで、『魔公誕生の儀式』を行った、ディアーネ教の、司祭です」


 首を傾げるサシャに、シュシュが説明する。


「その『魔公誕生の儀式』について、聞き捨てならない証言があったそうだよ。なんでも、『魔公誕生の儀式』は、『エイリス王国』で編み出されたものらしい」

「なっ!?」


 俺は目をいた。


 エイリス王国とは、ブルート王国の北東――『ルビアかい』にある、魚人族ぎょじんぞくの王国だ。


 十二の島からなり、魚人族の国らしく、領海内の海底にも都市があるらしい。


「もしかして、エイリス王国が魔王軍と通じてるってこと!?」

「いまの時点ではわからないが、可能性はあるだろうね」


 驚くクゥに、シェイラさんはあごに指を当てながら答える。


「エスピーノ王国との協議の結果、わたしがエイリス王国に使者として向かい、詳しく調べることになった」

「ということは、シェイラさんがわたしたちのもとを訪ねたのは、協力を要請するためですね?」


 ミアの確認に、「ご明察めいさつ」とシェイラさんが口端を上げた。


「ブロセルクの人々が魔公ダキニに操られていた件を踏まえると、またしても魔公が暗躍あんやくしているのかもしれない」

「それで、魔公討伐者の、パパのとこに、来たの?」


 尋ねるピピに、真面目な顔でシェイラさんが頷いた。


「何度も世話になってすまないが、また力を貸してくれないだろうか?」


 俺はブロセルクでの一件を思い出す。


 ダキニのたくらみで、危うく戦争が起きるところだったんだ。魔王軍が関わっているのであれば、今回の件も見過ごすわけにはいかない。


 視線で確かめると、五人がコクリと頷く。


 俺は決めた。


「わかりました。その依頼、引き受けます」

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