ずっと踊らされていたが、俺に屈するつもりはない。――15

「ほほほほっ!」と、ダキニの哄笑が響く。


 俺は静かに言った。


「お前の目は節穴だな、ダキニ。?」


 紅蓮の狂飆ファイアストームがかき消えた。


「なん……じゃと!?」


 ダキニが目を剥いた。


 作戦通りだ。


 リラごと倒そうと俺に提案した直後、サシャは念話を送ってきた。


『オレとピピが、合体魔法をダキニに放つよ。ダキニはやられないため、「憑依」スキルを解除するはず。そうしたら、クゥが合体魔法を打ち消して』


 その案を元に、俺はダキニを仕留めるまでの道筋を考え、五人と共有していたんだ。


 俺とミアが駆けだす。


「くっ!」


 ダキニが魔力のレーザーで反撃してきた。


「させま、せん!」


 シュシュが、俺とミアを庇うように前に立つ。その体は、水の鎧で覆われていた。

 水魔法『アクアアーマー』。高速水流の鎧をまとう魔法だ。


 魔力のレーザーが水の鎧に当たり、水流に軌道をそらされる。


 ダキニの魔法は、神獣みんなの合体魔法クラスの威力だったが、『魔力放出』スキルの威力はそこまでじゃない。シュシュのアクアウォールだけで防げたのが証拠だ。


 つまり、『魔力放出』スキルの攻撃は、シュシュひとりでも対処できる。


 そしてシュシュは、紫色のオーラをまとっていた。


 相手からの攻撃によるダメージ。その一部を返す『報復ほうふく』スキル。


 必然、ダキニは『報復』スキルによるダメージ返しを受けることになる。


「が……っ!!」


 ダメージ返しにより、ダキニの体が強張る。


 好機こうき


 俺とミアは、ミスリルソードと刀を閃かせた。


「「はあぁああああああああああっ!!」」


 剣閃二条けんせんにじょう


 切り落とされるダキニの両腕。


「ぎゃあぁああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 ダキニの絶叫が響く。


 サシャがリラを抱え、壁際に退避させた。これでなんの妨げもない。


 俺とミアは即座に振り返り、トドメの一撃を振るう。


「「終わりだ(です)!!」」


 血走った目で、ダキニが俺たちを睨み付けた。


「やってくれたのう! じゃが、ただではやられぬえ!!」


 ダキニの体が輝きを放つ。


 ミスリルソードと刀が、ダキニに届く寸前で止められた。


「「なっ!?」」


 それだけじゃない。逆に弾き飛ばされ、俺とミアは背中から壁に叩きつけられた。


 肺腑はいふから空気が絞り出され、「が……っ!」と俺はうめく。


「パパ! ミア!」

「ぐ……っ。大丈夫だよ、ピピ」

「わたしも、平気です」


 心配するピピに、咳き込みながらも俺とミアは答えた。


 痛みはあるが耐えられる。それよりも、いま問題なのは、


 ダキニは一体なにをしているんだ!?


 ダキニから放たれる輝きはどんどん増し、バチバチと大気が爆ぜる音が聞こえる。


 ダキニがニヤッと口端をつり上げた。


「妾の奥の手『自爆じばく』スキルじゃ。妾の生命力・魔力をエネルギーに変え、爆発を起こす。死なば諸共もろともじゃ。主らもブロセルクも道連れだえ」


 俺はギョッとする。


 最後の最後で、こんな隠し球を持っていたなんて! このままでは、ブロセルクが滅んでしまう!


「そんなこと!」

「させない」


 クゥとピピが、魔法を行使した。


「コールドウインド!」

「タイフーン!」


 クゥが放った凍気とうきと、ピピの起こした暴風が混ざり合う。


 すべてを凍り付かせる氷結地獄ホワイトアウトが、ダキニをのみ込んだ。


 魔公ヴリコラカスさえ倒した合体魔法だ! これならダキニにも……!


 真白い暴風が轟々ごうごうと荒れ狂い――唐突とうとつに弾け飛ぶ。


 ダキニには傷ひとつない。

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