マジメな調査のはずだが、みんなのスキンシップがやっぱり激しい。――8

 二日後。俺たちはホール伯の屋敷を訪ねていた。


 広大な庭を持つ、豪勢な洋館。俺たちの屋敷より、三倍は大きい。


「ようこそおいでくださいました!」


 出迎えてくれたホール伯は、『爽やか紳士』という印象だった。


 一八〇はありそうな背丈。体型は細身。


 灰色のセミショートヘアに、青い瞳。


 今年で四三になると聞いているが、ずいぶん若々しい見た目だ。二〇代と言われても疑わなかっただろう。


 落ち着いた、紺の衣装を身につけているホール伯は、うやうやしく片膝をついた。


 それもそのはず。俺の隣には、リラがいるのだから。


御自おんみずからの出迎え、感謝します、ホール伯」

滅相めっそうもございません。王女殿下のご来訪とあれば」


 リラは、ホール伯を調べるにあたっての協力者だ。


 俺たちだけでは、ホール伯には接触できなかった。そのため、リラに手伝ってもらうことにしたんだ。


 ちなみに、今日のリラは王女らしく、白いドレスをまとっている。


 リラが「楽にしてちょうだい」と許しを出すと、「失礼します」と、ホール伯が立ち上がった。


 リラが、隣にいる俺たちを片手で示す。


「こちらがシルヴァリンこうよ」

「お初にお目にかかります、ホール伯。シバ・ダ・シルヴァリンと申します」

「シーク・ディル・ホールと申します。お見知りおきください、シルヴァリン公」


 ホール伯が深々と腰を折った。


 今日の俺は、『誤魔化し花のブローチ』により、『二〇歳の人族・ブルート王国の公爵』に変装している。


 友好関係にあるリラに招かれて、ブロセルクを訪れたという設定だ。ホール伯の屋敷を訪問したのは、リラから紹介されたため、となっている。


 ホール伯が頭を上げ、柔和にゅうわな面持ちで訊いてきた。


「そちらのお二方は、シルヴァリン公の恋人方でしょうか?」


 俺は「うっ」と言葉に詰まる。


 そう。ホール伯の屋敷を訪れたのは、俺とリラだけじゃない。俺の両腕に、ピピとシュシュが抱きついているんだ。


「恋人……魅力的な、響き」

「ゆ、夢のある、言葉、です!」

「ふ、ふたりは、私の妹で、リリとスーといいます」


 ふたりはポヤンと夢見るような顔をしていた。


 口端を引きつらせつつ、俺はふたりを紹介する。


『ふ、ふたりとも、密着する必要はあるの?』

『もちろん。だって、ピピも、シュシュも、お兄ちゃんが、大好き』

『お、お風呂にも、一緒に入ってる、設定、ですから!』


 念話でたしなめるも、まったく効果がなかった。


 設定上、ピピは『一三歳の人族:リリ・ダ・シルヴァリン』、シュシュは『一四歳の人族:スー・ダ・シルヴァリン』となっている。


 俺との関係は『兄妹』。それも、『毎日三人で入浴しているほど仲良し』――いろいろアウトな設定だ。


 それにしても、『お兄ちゃん』呼びはグッとくるものがあるなあ……心を揺さぶる魔力でも、宿っているのか?


「リリたち、お兄ちゃんが、大好き」

「か、片時も、離れたく、ないです」

「申し訳ありません、ホール伯。お恥ずかしいところを」

「とんでもありません! 仲睦なかむつまじいようで、うらやましい限りです!」


 ホール伯が快活かいかつな笑い声を上げ、俺は深々と溜息をついた。

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