マジメな調査のはずだが、みんなのスキンシップがやっぱり激しい。――3
日が沈み、窓の外には闇が広がっていた。
夕食をとった俺と五人は、リビングで作戦会議をはじめる。
「どのように調査しましょう? 冒険者内でシルバさまは有名人です。表立って調べると、国王
ミアが挙手して意見を述べた。
魔公を三体も討伐した俺たちは、冒険者のあいだで名が通っている。
レティさん
それだけでなく、『(元)最強の冒険者』のサシャまで仲間にしているんだ。目立つなというほうが難しいだろう。
そんな俺たちが、聞き込みや調べものを堂々と行ったら、『シルバがブロッセン王国について調査している』と、冒険者を経由して国王たちの耳に届くかもしれない。
ミアが
「大丈夫。対処法は考えてある」
俺は微笑み、バックパックから
『
俺は『大食い麻袋』に手を突っ込み、ブローチをひとつ、取り出す。
「これは『
「認識を誤魔化す?」
首をコテンと傾げるクゥに、ブローチの効果をかみ砕いて聞かせる。
「たとえば、『
「流石は、妖精さんのアイテム。驚きの、効果」
普段は表情の
「『生物を無生物に誤認させる』とか『人族・亜人族を、別の生き物に誤認させる』とか、明らかに無理のあることはできないけど、『誤魔化し花のブローチ』を使えば、正体をバレずに調査できる」
それだけでなく、
「冒険者では
「「「「「たしかに」」」」」
五人が「うんうん」と頷いた。
五人からの賛同を得て、俺は話を進めようと口を開く。
「で、でしたら、お互いの呼び方も、変えないと、いけませんね」
それより早く、シュシュが
シュシュの伝えたいことがつかめず、俺は「ん?」と聞き返す。
「あ、あたしは、主さまのことを、『主さま』と呼んでいますが、変装しても、『主さま』と呼んでいては、おかしくない、でしょうか?」
「そっか。師匠とオレたちは『主と配下』――一般的な関係じゃないしね」
サシャが、ポン、と手を打った。
なるほど。特殊な関係にある俺と五人が、変装後も『主と配下』のままだとおかしい。変装する際は、別の呼び方が必要になるってことか。
「じゃあ、ボクはご主人さまのこと『シルバ』って呼びたい!」
クゥが元気よく手を挙げる。
クゥの要望を聞いて、ミアが眉をひそめた。
「シルバさまを呼び捨てにするのは、どうかと思いますが……」
「呼び捨てにはしちゃうけど、ご主人さまを尊敬する気持ちは変わらないよ!」
「ですが……」と、なおも難色を示すミア。
そんなミアに、クゥがニパッと笑ってみせる。
「それに、呼び捨てにしたら『恋人』っぽいし!」
ミア、ピピ、シュシュ、サシャの背後に、『ピシャーン!』と稲妻が走るエフェクトが見えた。
クゥの衝撃的発言に、俺は
「こここ恋人!?」
「うん! 変装って、『ごっこ遊び』みたいなものでしょ? だったらボク、ご主人さまの恋人になりたい!」
「ニヘヘヘー」と、クゥが頬を緩める。
どストレートなクゥの告白に、俺はパクパクと口を開け閉めした。
ククククゥが俺を
俺は視線を右往左往させる。こんなにテンパったのは、前世・現世を通してはじめてだ。顔が熱くて仕方がない。
「素晴らしいアイデアです、クゥさん! 普段とは異なる関係性でシルバさまと
先ほどまで反対していたミアが、一転して目を輝かせる。
ミアだけじゃない。ピピ、シュシュ、サシャも、修学旅行前日の中高生みたいに、ワクワクした表情をしていた。
「ピピ、兄妹がいい。パパの妹に、なりたい」
「あ、あたしも、主さまのこと、『お兄ちゃん』って、呼びたい、です!」
「オレは『先輩と後輩』がいいな! 設定としては、友達以上恋人未満の
いまだに困惑している俺を置いてきぼりにして、次々と希望が上がる。
「ミアはどんな関係がいいの?」
クゥがミアに尋ねた。
ミアは色づいた頬に両手を当てて、少しだけ恥ずかしそうに答える。
「わたしは、シルバさまと『夫婦』になりたいです」
凄まじい破壊力に、心臓がドキーン! と跳ね上がった。
ガツンと殴られたような衝撃。ギュンと締め付けられる胸。
全身が
「ふ、夫婦も、いいです、ね!」
「ええ。王道とはこのことです!」
「ん。ピピたちの、ゴール地点」
「師匠と夫婦……!? け、けど、オレには恐れ多いし……!」
「うーん、ボクも夫婦にしようかなぁ? でも、恋人も甘酸っぱくて捨てられないし……」
盛り上がった五人が話し合いをはじめる。
五人とも、これ以上なくイキイキしていた。
みみみみんなが俺と夫婦になりたがっている!? い、いや、あくまで変装だし! 『ごっこ遊び』だし! き、きっと、みんなテンションが上がっているだけだ! そうだよね!?
俺はガシガシと頭を
ブロッセン王国の調査は、早くも波乱の予感だった。
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