再会した妖精女王の前だが、みんなのスキンシップが相変わらず激しい。――5

「お、美味しかった、ですね」

「満腹」


 晩餐を終えた俺たちは、ホクホク顔で、ニアヴが用意してくれた客間へと向かっていた。


 俺も満足だ。戸惑う場面が多々あったけど。


「ねえ、師匠。お願いがあるんだけど、いいかな?」


 カメロトの大樹内のらせん階段を上っていると、不意にサシャが声をかけてきた。


「なに?」と尋ねると、サシャが真剣な目をしながらお願いの内容を口にする。


「オレ、師匠と手合わせがしたいんだ」

「手合わせ!?」


 目を丸くする俺に、サシャがコクリと頷く。


「師匠は、オレを食べようとしていたネズミを簡単に追い払った。そのときから、師匠の強さに憧れていたんだ!」


 前世でのことを言っているんだろう。たしかに俺は、ネズミに襲われていたサシャを助けた。


「師匠に追いつきたくて、師匠の強さの秘訣ひけつを学びたくて、それで、何度も師匠に会いにいったんだよ!」

「よく俺の前に姿を現したのには、そんな理由があったのか」


 得心とくしんがいった。


 前世で、サシャが頻繁ひんぱんに俺の前に姿を見せたのは、俺から強さの秘訣を学ぼうとしていたからなんだ。


「師匠はオレのご主人さまで、同時に追い越したい存在でもあるんだ! だから、手合わせしてほしい! オレがどこまで師匠に近づけたか、確かめたいんだ!」


 サシャが胸元でギュッと両手を握りながら頼んでくる。


 正直、最強の冒険者(だった)サシャに敵うなんて、ちっとも思えない。


 前世でサシャがネズミに勝てなかったのも、俺がネズミを追い払えたのも、種族的に当たり前の話だ。いまのサシャは、間違いなく俺を超えている。


 けど、そう説明しても、サシャは満足しないだろうなあ……サシャは俺を過剰に尊敬しているみたいだし。


 しばし逡巡しゅんじゅんし、俺は覚悟を決めた。


 自信はまったくない。勝てる気もしない。それでも、サシャの希望には応えたい。


 サシャも、クゥ、ミア、ピピ、シュシュと同じように、俺のために転生してくれたのだから。


「わかった。精一杯頑張ってみるよ」

「やった! ありがとう、師匠!」


 にぱっと破顔するサシャに、失望させないように気合いを入れないとな、と、俺は頬をパンパンと叩いた。

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