何度となく絶望に叩き落とされたが、何度でも立ち上がりたい。――13

「オメェらが丈夫じょうぶで嬉しいぜ! まだまだ戦えるんだからよぉ! オラ、とっとと立てや! 遊ぼうぜ!」


 ヴリコラカスが人差し指をクイクイと動かし、俺たちを挑発する。


 そのヴリコラカスに刻まれていた刀傷が、目に見えて減っていた。


 俺はギョッとする。


 回復している!? これもスキルの仕業しわざか!?


 ここまでの戦いで、ヴリコラカスの傷が癒える場面はなかった。ヴリコラカスの傷が消えたのは、俺とミアにダメージを与えてからだ。


 だとしたら、『ダメージを与えた際、回復する』スキルってところか?


 仮説を立て、俺は歯噛みする。


 ヴリコラカスは、想像以上に厄介な相手だ。


 近接戦闘も魔法戦闘もでき、どちらの威力も強烈。加えて、『魂喰らい』スキルで徐々に強くなり、『ダメージを与えた際、回復するスキル』――『吸収きゅうしゅう』スキルと仮称かしょう――があるため、長期戦にも対応可能。


 ドッペルゲンガーのように、からめ手は使えない。


 デュラハンのように、配下を従えることもできない。


 ただし、純粋な戦闘力は、どちらの魔公よりも上だ。


「どうしましょう、シルバさま? 時間をかければかけるほど、わたしたちは不利になってしまいます」


 苦々しげに言ったミアに、俺はしかめっ面で頷く。


 ハウトの村人たちが魔獣に襲われているため、ヴリコラカスの戦闘力は、『魂喰らい』スキルによって、時間とともに上昇する。


 現状でさえ厳しいのに、これ以上強くなられたら、俺たちの勝機は一気に薄れる。


 チャンスがあるとしたらいまのうちだ! 一刻も早く、ヴリコラカスを倒さないと!


 焦燥のなか、俺はかつてない速度で頭を働かせた。


 知恵熱で脳細胞が沸騰ふっとうしそうだ。


 焼き切れる寸前まで思考を回転させ、俺は勝利への道筋を立てる。


『ミア――』


 作成したプランを、念話ねんわでミアに伝える。


 コクリ、と真剣な顔付きでミアが首肯し、俺たちは立ち上がった。


「いい顔してるじゃねぇか。こいつぁ、期待が持てそうだ」

「ああ。ここで決める」


 ニタニタ笑うヴリコラカスに宣言し、俺とミアは前傾姿勢をとり、一歩を踏んだ。


「来やがれ! 迎え撃ってやるよ!」


 ヴリコラカスが右手を突き出す。


「『ダークエクスプロージョン』!」


 俺とミアの進行方向に、暗黒色の球体が出現した。


 球体は拳サイズの小さなものだが、バチバチと火花が弾けるように、エネルギーがほとばしっている。


「まとめて爆散しろや!」


 ダークエクスプロージョンは、大爆発を引き起こす広範囲魔法。このまま突っ込んだら、俺とミアはひとたまりもない。


 だが、俺は焦らなかった。


「そう来ると思った」


 俺とミアは、瞬時にバックステップを踏む。


「ああ!?」


 ヴリコラカスが顔をしかめた。


 そう。俺とミアが駆けたのは、


 つまり、フェイント。


 俺とミアは、はじめから後ろに跳ぶつもりでいたんだ。


 ヴリコラカスは、格闘と魔法、両方の戦術を用いることができる。そのことを踏まえて考えると、俺たちと距離がある現状、使ってくるのは魔法。それも、俺とミアをまとめて倒すことができる広範囲魔法である可能性が高い。


 俺はそう読んでいた。ヴリコラカスの行動を予測していたんだ。


 暗黒色の球体がぜる。


 離れていても、爆風で体を持っていかれそうだ。闇雲に特攻していたら、間違いなく影もかたちも残らなかっただろう。


 爆風に耐え、俺とミアは、再び地を蹴った。


 駆ける方向は一直線。ふたりして、ダークエクスプロージョンが起こした粉塵ふんじんのなかに突っ込む。


 粉塵を突っ切り、俺はミスリルソードを脇に構えた。


「真っ向勝負か! いいぜ、乗ってやるよ!!」


 ヴリコラカスが歓喜の表情で、俺に飛びかかってくる。


「まさか。俺はいつだって、みんなと一緒に戦っている」


 だから、


「ふたりで行くよ、ミア!」

「はい!」


 一拍遅れて、ミアが粉塵から飛び出した。


 俺を飛び越えるような大跳躍だいちょうやく。両手で振りかぶるのは、四メートルはあろうかという斬馬刀ざんばとうだ。


 ヴリコラカスが瞠目する。


 俺とミアによる、地上と空中からのダブルアタック――この状況こそが、俺の狙ったものだ。

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