救世主だとは信じられないが、仲間のためなら応えたい。――3

 いろいろあった一日も終わりを迎え、俺たちは床に就いた。


 やはりメアリさんは、就寝時のことも考え、ベッドを用意してくれていた。


 ただ、


「欲を言えば、シングルを揃えてほしかったなあ……」


 メアリさんが用意してくれたのは、キングサイズのベッドだった。


「みなさんで一緒に眠るには、大きいほうがよろしいですからね」


 とはメアリさんの意見だが、前提として、男である俺を『みなさん』に含めるのは間違っていると思う。


 どこか天然の気配を感じ、「クゥのお母さんなんだなあ」と妙に納得してしまったけれど。


 そんなわけで、俺、クゥ、ミア、ピピ、シュシュ、メアリさんの六人は、同じベッドで横になっていた。


 俺の右側にシュシュ、正面にピピ、左側にミア、ミアの隣にいるクゥは、メアリさんに抱かれているかたちだ。


 相変わらず、ピピはプニプニのほっぺをすり寄せ、ミアはスベスベの脚を絡ませ、さらにはシュシュが、膨らみかけの胸を押しつけてくる。


 女の子特有とくゆうの甘酸っぱい匂いも漂っていて、俺の体は熱くなるばかりだ。


「……今夜も寝付くのが大変そうだ」


 みんなの安らかな寝息を聞きながら、俺は溜息ためいきをついた。


「あ、主さま? 起きています、か?」


 遠い目をしていると、不意にシュシュが話しかけてきた。


 顔を向けると、サファイアの瞳と目が合う。


「眠れないの、シュシュ?」

「い、いえ、そんなことは、ないのですが」

「じゃあ、どうしたの?」

「と、特に、用は、ないのですが、あ、主さまの声が、聞きたくて……」


 俺が訪ねると、シュシュが、照れの交じった苦笑いを浮かべた。


「も、もったい、ないんです。眠っている、時間が」


「もったいない?」とオウム返しすると、シュシュは「はい」と頷いて、幸せそうな顔を見せる。


「やっと、主さまと、再会できて。デュ、デュラハンからも、解放して、いただいて。あ、あたし、幸せなんです。いままで、生きてきたなかで、一番、幸せなんです」


 だから、


「い、一秒でも長く、主さまと、一緒の時間を、過ごしたいんです」


 眠る時間がもったいないって、そういう意味か。


 シュシュの言いたいことを理解して、俺はクスッと笑みを漏らしてしまう。


「お、おかしい、でしょうか?」

「ううん。シュシュらしいと思ったんだよ」


 不安そうに眉を下げたシュシュを、俺は優しく見つめる。


「大丈夫だよ。これからは、ずっとシュシュと一緒にいるから。絶対に離さないから、安心してお休み?」

「は、はいっ! 大好き、です! 主さま!」


 瞳を潤ませながら、シュシュが、俺の右腕をギュッと抱きしめた。


 瞬間、


「ふぁんっ❤」


 シュシュが悩ましげな声を上げ、俺は戸惑う。


「シュ、シュシュ? どうしたの?」

「あ、主さまの指が、あ、当たって」


「どこに?」とは聞けなかった。


 いままでの経験から、みんながをしたときは、細心さいしんの注意が必要だと知っているからだ。


 こういうときは大抵、まるで神さまのイタズラのように、触れてはいけない部分に触れてしまっている。


 いますぐ頭を抱えたい気分になりながら右手に注意を向けると、中指から、ほかとは違う感触が伝わってきた。


 レース地のようにサラサラした質感、ほかの部分よりわずかに高い温度、そして、微量の湿しめり気。


 ま、まさか、ここって……


 頬が引きつり、緊張から、かすかに手が動いてしまった。


 クニッ


「ひんっ❤」


 同時に上がる、シュシュの甘い声。


 ビクッ! と強張こわばる細い体。


「えっと……シュシュ? 大丈夫、かな?」


 おそるおそる尋ねる俺の前で、シュシュのまぶたが半分せられ、トロンとした目付きになった。


 ハァ、と熱い息を漏らす口からは、ピンク色の舌が見える。


 シュシュがモジモジと身をよじり、俺の右腕を一層いっそう強く抱きしめた。


「主、さまぁ……そこ、も、もっと、クニクニして、ください❤」

「やっぱりかよ! 神さま、いい加減にしてくれませんかねぇ!」


 できることなら、ディアーネさんにクレームをつけたい。


 クゥ、ミア、ピピ、シュシュみんなを転生させてくれたことは感謝していますけど、俺に女難の相とか付け加えてません? と。

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