第33話 脱税貴族 その3


 そうして2日後の朝に一行はノリッジの街の城門に着いた。


 城門にて査察団のリーダーのリンツが辺境領領主の正式な文書を提示し、


「辺境領領主、エニス=フランクリンの依頼にてこの領地の査察に来た。速やかに入城させてもらおう」


 突然の査察にびっくりした城門に立っている衛兵、詰所からは騎士が数名飛び出してくる。


「突然じゃないですか?」


「領主様は抜き打ちで領内の査察をされておられる。今回はここがその場所になっただけのこと。では入らせてもらうぞ」


 リンツが言うと衛兵の一人が街中に飛び出していった。残りの衛兵は、


「手続きをしますのでもうしばらくお待ちを」


 時間稼ぎをしているのが丸見えで、


「この書面に問題があるということか?」


「いえ、あくまで手続きでして」


 そう言いながらも全く手続きを始めない騎士達を見て


「もう良い。手続きは後でいくらでもしてやる」


 リンツがそう言い、馬車が門を潜ろうとするとその前に立ちはだかる衛兵達。


「邪魔するとお前達にも罰則があるが、良いのだな?」


 そう言われて渋々横に退ける衛兵達を尻目に2台の馬車は市内に入ると屋敷を

目指して進んでいく。


「リズ 、結界は大丈夫?」


「ばっちり掛けてる」


 馬車に随行する様に馬車の隣を歩くケリーとリズ 。万が一馬車に手を出そうとしてもリズの結界で弾かれる様に城門の前から強化魔法で馬車群に結界を張っていたリズ 。


「あとはグレイね」


「彼は大丈夫よ」


「まぁね」


 その頃グレイは隠蔽魔法で姿を隠したまま領主の館の前で待っていた。そこに1名の騎士が猛ダッシュで走ってきたのが見えて、消えたままその騎士にスリプルをかけると、その場でフラフラとした騎士は道端にストンと腰を落として眠ってしまう。


(さてと、こっちも準備しておくか)


 そのまま屋敷の塀を越えると建物の正面玄関に近づき、姿を表すとそのまま玄関の扉を開ける。


 そうして領主の部屋に向かおうと左に曲がるとその近くの部屋から数名の騎士が飛び出してきた。


「何者だ?」


「案内も無く入ってくるとは不審者か?」


「うるさいな」


 部屋から出てきた二人をスリプルで寝かせると他の騎士も全員寝かせる。


 そのまま廊下を歩いて突き当たりの部屋を目指すグレイ。他の部屋から出てきた男達はグレイを見て道を開ける様に廊下の左右に避ける様に移動する。


 そうして領主の部屋の前につくとノックもせずにいきなりドアを開けて部屋の中に入っていった。


「な、何だ?君は突然に。ここがテムズの領主の部屋だと知っての狼藉か?」


 部屋の机に座っているのは事前にこの屋敷を下見に来た時にもいた男だ。


「ああ。知っている。領民からは高額な税を集め、辺境領主には不作と嘘をついて税の過少申告をして私腹をこやしているたちの悪い貴族の部屋だってことはな」


 グレイが一気に言うと、テムズの顔が真っ青になる。


 すると廊下をどやどやと走る音がしたかと思うとリンス一行が部屋に入ってきた。

辺境領領主の手紙を見せつけ、


「テムズ=ミケルソン殿、これより辺境領主の命を受けて査察を行います。勝手に書類には触れられなさぬ様に」


「査察?聞いてないぞ」


 そう言うと扉の向こうに向かって


「おい! こいつらを引っ捕らえろ!」


 大声を出す領主のテムズにグレイが


「騎士を呼んでいるなら来ないぜ、今は眠って貰っている」


「なぜだ?なぜなんだ」


 大声で騒ぎ出した領主に


「貴族のくせにうるさいわね」


 ケリーがそう言うと叫んでいる領主に麻痺の魔法をうつ。


「あんたはそこでじっとしときなさい」


 麻痺の魔法は身体の動きだけ止めているが意識ははっきりとしている魔法だ。普通は長時間は持たないがランクSのケリーなら長時間持つし、上書きもできる。暴れない様に領主をソファの椅子に座らせると麻痺を解いて


「動いたらまた魔法撃つわよ」


 ケリーが言うとビクンとする領主。


 査察チームは早速査察団が机や棚をひっくり返して様々な書類を出していく。グレイはそれを見ながら、


「リズ 、騎士と館の入り口はどうなってる?」


「打ち合わせ通りにギルドの冒険者が館の入り口を見張ってる。騎士は全員縄で縛り上げてるわよ」


 リズ の言葉に頷くグレイ。査察隊が部屋に入るとグレイら3人はすることがないので扉の近くで査察チームの連中が忙しそうに動いているのを見ているだけだ。


 ケリーだけが視線を領主に向けている。


 すると部屋を調べていた査察チームの一人が、


「この2つの魔法金庫、どちらも本人の魔力で開けるタイプの金庫だ。我々じゃ開けられない」


 グレイはチラッと領主を見ると勝ち誇った様に、


「その金庫は私しか開けられないぞ。無理に開けようとすると爆発する様になっている」


 その言葉を聞きながらグレイはその金庫に近づいて、


「俺がやる」


 そう言うと金庫の取手に瞬間的に大量の魔力を流し込む。するとあっさりと金庫が開いた。同じ様にもう1つの金庫もあっさりと扉が開く。


 口をアングリと開けて信じられないという顔をしている領主にグレイは近づくとその顔に自分の顔を近づけて、


「いいことを教えてやろう。この手の魔法金庫は確かにあんたが言う通り魔力を登録した奴でないと開けられない。ただし、瞬間的に膨大な魔力を注ぎ込むと魔力回路がショートしてこうやって開くんだよ」


「ありました!帳簿が2種類あります!」


 開けた金庫から書類を取り出していた査察チームの一人が声をあげる。それを聞いた領主はがっくり首を落とした。


 その後は見つけた二重帳簿から不正の根拠を見つけ出した査察チーム。


 チームリーダーのリンツは


「この証拠は我々が持って帰る。領主様は国王陛下と相談されるだろう。追って沙汰が出るまで貴方と貴方の一族の身元は拘束させてもらう」


 そうして領主とその一族は全員館の隅の部屋で軟禁状態となった。


 ギルドから派遣された冒険者達が館の周囲や部屋の前に立ち、勝手な振る舞いをさせない様に見張ることとなり、また騎士達は今までの非道な行いが多くの住民から糾弾され衛兵が持っている牢に全員閉じ込めた。


 全てが終わると査察チームは2つに分かれ、引き続き資料や帳簿を分析するチームと、不正の証拠をエイラートに持ち帰るチームとに分かれる。


 リーダーのリンツはこのままノリッジで引き続き作業をするチームで、グレイらに、


「おかげで証拠がばっちりと集まりました。もう言い逃れはできないでしょう」


「そりゃよかった。俺たちはエイラートに帰るチームの護衛をして戻るよ」


 そうして最後にギルドに顔を出す。


 ギルマスのレスターに世話になった礼を言うと、


「こっちから礼を言わなきゃならない立場だぜ。それにしても元勇者3名が来るとはな」


「領主のエニスの頼みだからな。あとは頼むよ。まぁ無茶はしないと思うが」


「わかってる。そっちは任せておけ。それにしても領主も元勇者。お前ら本当に仲がいいんだな」


「何度も死にかけると仲も良くなるさ。それよりこれでノリッジの街に活気が戻るといいな」


 グレイの言葉に頷いて、


「全くだ。冒険者や商人の奴らから情報は広まるだろうし、時間はかかるが必ず以前のノリッジに戻ると信じてる」


 そうしてギルマスを挨拶を交わすとエイラートに戻る査察チームに同行してグレイら3人もエイラートに戻っていった。


 その後のノリッジだが、テムズ家の横領、不正及びお抱え騎士による住民への暴力などが次々と明るみに出てテムズ家は取り壊し、領主のテムズ=ミケルソンは死刑。

他一族は貴族の称号を剥奪され資産も全て没収されて平民へ格下げとなった。


 テムズ家が所有していた領地は辺境領領主の直轄地となり(この決定に一番喜んだのは領民達だった)査察チームでリーダーをしていたリンツがそのまま領主代行としてノリッジにて勤務することになった。


 そしてアル・アインの国王は国中の領地を治めている貴族に今後も抜き打ちの査察は続ける。その際に不正を見つければその貴族は全てその身分を剥奪すると告知した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る