第23話 勘違い野郎はどこにでもいる
「そういえば新しく辺境領の領主でやってきたのも元勇者でしょ?皆辺境領に集まってきてるわね」
「ああ。結果的に集まってきた。この街も辺境領内だし、そのうちにエニスが挨拶に
くるんじゃないの?」
「来て欲しいわね。この街の貴族は旧領主一派だったから。今頃はこの街の屋敷の中で毎日ひやひやして過ごしているかもしれないわね」
「エイラートに帰ったらエニスに一度ネタニアに行く様に言っておくよ」
その後しばらく雑談をして、ソファから立ち上がると
「今日はこの街に泊まるの?」
「いや、リズとも話ししたんだけど今回はこのままエイラートに帰る。またゆっくりとこの街にくるよ。エイラートはもう直ぐ雪が降りそうなんでね。冬籠りの準備をしないと」
「空間調節魔法だっけ?移動魔法があるのよね、便利ね」
「ギルマスも必要ならいつでも言ってくれよ」
「その時はお願い」
そう言ってギルドカードを返してもらい、ギルマスと別れてギルドのカウンターに戻ると、
「よう姐ちゃん、一杯やっていきなよ」
酒場から野太い声が聞こえ、見ると4、5名の冒険者が濁った目をしてリズ を見ている。
「そんな野郎はほっといて俺たちと一緒に飲んだ方がずっと楽しいぜ」
「飲んだ後も楽しい事があるぜ」
そう言って馬鹿笑いをする男達。
「どの街にもいるんだな。こう言う馬鹿が」
グレイが冷めた口調で言うと、
「おいっ、今何と言った?俺たちの事を馬鹿だと?」
「なんだ、ちゃんと聞こえてるじゃないか」
グレイがそう言うと、ガタっと椅子を倒して男達がテーブルから立ち上がってグレイとリズ に近づいてきて、
「女の前だからっていい格好してるけどよ、後で泣いてもしらないぜ?」
それを聞いたリズ も呆れた口調で
「グレイ、この人たちに何を言ってもきっと分からないわよ」
「そうだな。まだ夕方なのに酒食らって、強くも無いのに偉そうにしてる奴には何言っても無駄か」
「おいこらっ、表に出ろ! ぶちのめしてやる」
そう言うと5名の冒険者とグレイ、リズ がギルドの前の大通りに出てきた。
ギルドで喧嘩はしょっ中あるのか、周囲の人がサッと引いて円形になって取り囲む。その中には市民もいれば冒険者もいる。
「ここで土下座したら今なら許してやるよ、女を置いて消えるならな」
5人の中のリーダー格の男がグレイを睨みつけてすごんでくるが、全く脅威を感じていないグレイは、5人と対峙しながら普段と同じ表情で
「いや、お前こそ、今ここで土下座をしたら恥をかかせないで済ませてやるが?」
言い返してきたグレイの言葉を聞いて大男がいきなり斧をグレイに振り下ろした。
そして、
「な、何だと?」
振り下ろした斧はただ突っ立っているグレイの顔の前で弾かれて、その反動で後ろによろける男。
(おいおい、こんなところで本気武器出してくるなんてこいつら本当にバカだな)
「ほらっ、当たってないぞ」
突っ立ってるグレイが言うと、今度は斧を横ぶりに振り回してくるが、やっぱりグレイの体の横で斧がはじかれ、今度はその反動で斧が男の手から弾き飛ばされて道路の上に落ちた。
何が起こったか分からず呆然と立っている男の背後から短剣がグレイの顔に飛んでくる。しかしそれも同じ様にグレイの顔の前で弾かれて地面に落ちて乾いた音を立てた。
「もう終わりか?」
「この野郎」
今度は5人が一斉に飛びかかってくる。それを無造作に立ったまま受け止めるグレイグレイの強化魔法で弾かれた男たちはまるで自分から転がる様に無様な姿を大通りに晒す。
「何なんだよ?この野郎」
「ここまでされてもまだ自分達の実力が分からないのか?救いようがないな」
そう言うと無様な格好で地面に転がっている男達の前でゆっくりと地上から2メートル程浮上するグレイ。
グレイと冒険者の喧嘩を見ていた人混みから一人が空中に浮いたグレイを見て、
「大賢者グレイだ」
そう声を出すと、別のところから
「元勇者パーティ、ランクSの大賢者グレイだ。そして彼女は同じ勇者パーティのランクSのリズだ」
「そうだ、グレイとその奥さんで僧侶のリズ だ」
周囲で見ていた男達から次々と声が出てくる。
その声を聞くとグレイに喧嘩を売った男達が一斉に恐怖に慄いた表情に変わる。
「グレイ、そこまでにしておいて」
群衆の中からギルマスのリコが姿を現した。それを見てグレイはゆっくりと地面に着地する。
「気分悪い目にあわせたわね、リズもごめんね」
「いえ、大丈夫です。グレイももういいわよね?」
「ああ。それにしてもいきなり本気武器で殴ってくるってこいつら頭がおかしいんじゃないの?一つ間違ったら大怪我するぜ」
「これは完全に犯罪ね。冒険者の行為を逸脱してるわ。街中で本気武器で殴りかかったり、短剣を投げたり。今までは証拠がなかったけど、今日は私がしっかりと見たから」
そう言うとギルド職員と一緒にやってきた警備兵に
「彼らは街中で本気武器で攻撃したわ。捕まえて」
5人の冒険者達は警備兵に縄をかけられそのまま警備兵の詰所に連れていかれた。
連れて行かれる彼らを見ながら、
「グレイ。気を悪くしたかもしれないけどこの街にいるのは彼らみたいな冒険者ばかりじゃないのよ」
リコの言葉に頷き、
「わかってる。勘違い野郎はどこにでもいるもんさ。それに変な言い方だが俺もリズもこう言う手合いには慣れてる。気にしてないから安心してくれ」
そう言って隣に立っているリズ の肩に手を回して抱き寄せる。
「ありがとう」
表情が和らいだリコ。
「今度はゆっくりと来て頂戴。ネタニアのいい場所を紹介するから」
「それは楽しみね」
グレイに肩を抱かれたリズ がグレイに寄り添いながら答える。
「じゃあ、俺たちはこれで。世話になった」
「お邪魔しました。また来ますね」
そう言うと二人は人が割れてできたところを通って城門の方に歩いていった。
その二人の後ろ姿を見ながら他の冒険者達は
「凄い魔法だったな」
「本当に浮かび上がるんだな」
「強化魔法か? 斧を弾くなんてどんだけ強力なんだよ」
「大賢者、想像以上だ」
リコも二人の背中を見ながら
(本当に想像以上だわ。あれが賢者を極めた大賢者の力。彼一人でちょっとした騎士団並みじゃないの)
グレイとリズ は街の外に出ると移動魔法であっと今にエイラートの城門外に戻り
城門から街中に入っていく。夕方で賑やかな通りを二人並んで歩きながら
「帰ってきたって感じで落ち着くね」
「本当だよな。やっぱいいよな、エイラート」
グレイに寄り添って歩いていたリズ は顔をグレイに向けると、
「ねぇ、今夜は外で食べない?友達から美味しいレストランを聞いて行きたいと思ってたの」
「じゃあ、そうするか」
さっきの騒動など全く気にしていない二人はまるで何もなかったの様にいつもの会話をしながら夕暮れの街に消えていった。
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