第22話 護衛 その3

 そうして村の宿泊と野営を繰り返して街道を進むこと12日目の昼過ぎ、

一行の視界にネタニアの街の城壁が見えてきた。


 先頭の馬車に乗っていた木工ギルドの御者は馬の隣を歩いているグレイに


「あんたの言う通りしっかり休みを取ってたから馬も疲れず、予定より早く到着したよ」


「皆元気で無事到着してなによりだ」


ネタニアの門を潜って場内に入りそのまま木工ギルド横の貯木場に馬車を着けると、


「いや、本当に助かったよ。護衛ご苦労さん」


 そう言ってクエスト終了書にサインをしてグレイに渡す。


「こっちこそお疲れ様。えっと帰りはいいんだよな?」


「ああ。こっちで護衛を雇うから大丈夫だ」


「じゃあお疲れさま」


 そう言って木工ギルドを出ると、今回の護衛クエストに同行したエイラートの冒険者と一緒にネタニアのギルドに顔を出した。


 ネタニアはエイラート程ではないにせよ、そこそこ大きなギルドがあり、カウンターの隣の酒場には複数の冒険者がテーブルに座って酒やジュースを飲んでいた。


 12名の冒険者が入ってきたので一斉に視線を浴びるがグレイはその視線を無視してカウンターに行くと


「エイラートから護衛で来たんだ。これがクエスト終了の証明書」


 グレイがクエスト終了の証明書を渡すと、それを受け取った受付嬢が証明書を見て


「確かに木工ギルドの終了のサインがあります。お疲れ様でした。みなさんのギルドカードを更新しますね」


 そう言うと順番に受け取ったギルドカードにデータを打ち込んでいく。それを見ながらグレイは


「これでクエストは終わりだ。皆ご苦労さん。後は好きにしてくれ。ここで解散だ」


「「ありがとうございました」」


 10名のランクBの冒険者が皆グレイとリズ に礼を言う。そうして報酬をもらい、カードを返してもらった冒険者から順に宿を取るべくギルドを出ていった。


 グレイとリズ は最後にカードを受付嬢に渡し、


「はい。俺とリズの分」


 そう言って渡したカードを受け取った受付嬢はそのカードを見て顔色を変えて、


「す、すぐにギルドマスターを呼んできます」


そう言って奥にすっ飛んでいった。


「ジェシーの奴、慌ててたじゃないかよ」


「あの二人、名のある冒険者か?」


 酒場ではカウンターのやりとりを見ていたこの街の冒険者達がジェシーと呼ばれていた受付嬢が戻ってくるのを待っているグレイとリズ を見ている。


「それにしてもあの僧侶の女、えらいいい女だな」


「ああ。顔もスタイルも、ちょっとここらでは見ないレベルだぜ」


 酒も入っているのか男達が遠慮のない視線をリズ に注いでいるが、リズ は聞こえているのかいないのか、酒場の方は全く気にせずに隣にいるグレイに話かけて、グレイもうんうんと頷いている。


「ギルドマスターがお会いになりたいとの事ですがよろしいですか?」


 戻ってきた受付嬢が恐る恐るという感じで聞くと、


「構わないよ。俺たちもせっかく来たから挨拶しようと思っていたし」


「では、こちらへ」


 そう言ってグレイとリズ をカウンターの奥にある部屋に案内していく。


「はじめまして、私がこのネタニアのギルドマスターをしているリコ。よろしく」


 部屋に入って二人を出迎えたのは意外にも女性のギルマスだった。


「よろしく。俺はグレイ、それでこっちはリズ だ」


「よろしく」


 グレイとリズ が挨拶して、ギルマスに勧められたソファに座ると、


「ええ。知ってるわよ。勇者パーティのお二人。この大陸で知らない人はいないんじゃないの?」


 ギルマスのリコはシャツにズボンというラフな格好をしている。この格好からはギルマスのジョブは推測しずらい。


「そうか?ここのカウンターの横の酒場にいた連中は気づかなかったみたいだけど?」


「そりゃ顔までは知らない人の方が多いでしょう。ギルドの職員だったらほぼ全員があなた達の事は知ってるけど、普通の冒険者ならランクSの冒険者になんて会うことも無いし」


「魔王を倒してしばらく経つしな」


 グレイの返答に頷いて、


「それに今酒場にたむろしているのはまだランクBなのに自分達は強いと勘違いしている冒険者達だから世間知らずなの」


「そりゃ仕方ないか」


 あっさり答えるグレイ。実力を勘違いする冒険者はどこの街にもいるからグレイもリズ もまたか…という程度の感覚でしかなかった。


「ところで今回は護衛クエスト? ランクSに護衛クエストをさせるなんて、リチャードも人使いが荒いわね」


「まぁ色々あったんです。それにギルマスには普段からこっちが無理言ってるので、たまには彼のお願いも聞いてあげないと」


 リズ がリコに話かけると、リズ の方に顔を向け、


「エイラートでのあなた達の活躍はこっちにも聞こえて来てるわよ。国王や教王まで巻き込んで人攫い組織と貴族を一網打尽にした事とか」


 人攫い事件が解決してからギルド経由でその報告を聞いたリコはグレイとリズ の大胆でかつ最も効果的な作戦に感嘆していた。それと同時にたとえ相手が貴族であっても理不尽な事は許さないという目の前の二人の生き様にも共感を覚えていた。


「まぁ、あれはこのグレイが考えたんですけどね。彼はそう、参謀として策を練るのが好きだから」


「でも実に見事な作戦ね。国王や教王に好かれているあなた達だからできた作戦だけど、聞いてなるほどと感心したわ」


 そう言うとテーブルの上のジュースを飲み、


「そうそう、グレイ。大賢者って呼ばれているらしいじゃないの。賢者のジョブの本当の能力を引き出してくれてありがとう。この街でも賢者を選択する冒険者が増えてきてるわよ」


「それは嬉しいな。まぁそう簡単じゃないんだけどそれでも諦めずに突き詰めて欲しいよな」


 グレイがそう言うと隣でリズ が頷いている。


 リコは目の前に座っているグレイとリズ と会話をしながら二人を観察していた。


 元勇者パーティの一員。この大陸で自分達より強い人間はいない中、その気になれば何でもやりたい放題の立場にいる二人だが、こうして当人達を見て話をすると、普通の冒険者と何ら変わらない。


 ランクSなのに二人とも驕らず、粗野なそぶりも見せず、自然に振る舞っている。

 グレイに至っては賢者というジョブの今までの概念を覆す能力の開花を見せているが、それを全く自慢しない。


 そう言う人物だからこそ、国王も教王も自ら手を差し伸べてこの二人に協力したんだろうとリコは納得していた。


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