第7話 ティータイム(4回目のセッションを終えて)

黒い髪をかき上げる。手に当たるのは、額にある小さい角。


(風が強いな)


背負い袋の重みを確かめる。袋の中は2回も見直しをした。足りないものは無い。

新しい鎧で、少し伸びをしてみる。問題無い。


腰から下げた魔剣は、つかさやが歪にねじれている。

忌むべき奈落の力を宿した邪剣は、皮肉にも彼の唯一の相棒と呼べる存在だった。


アルベールは何度か柄を握り、離す。

それは彼の旅立つ前の癖。


「アルベール、もう行くの?」

「ドロシーか・・・。早いな」


背後には、冒険者ギルド黒い翼と星空のマスター、ドロシーが立っている。


早朝5時。


厨房にいたドロシーは、入り口から出ようとするシルエットに気がつき走り寄ってきたのだ。


首都ハーヴェスの城門が開くタイミングで、魔法戦士アルベールはナナル村へ向かおうとしていた。


たった独りで。


昨夜の遅くに冒険者ギルド"黒い翼と星空"に入ってきた情報。


『近隣の村2つが、蛮族の襲撃を受けてほぼ壊滅。

 蛮族の進行方向より、ガザ村への侵攻が予想される。

 各冒険者ギルドで、『グレートソード級』の冒険者の手配を求む』


目撃情報では下級の妖魔で、指揮をとっているのはボルグの上位種。


"黒い翼と星空"からも、ガザ村へはすでに、妥当な実力を持つ冒険者たちが派遣されている。


アルベールが気にしていたのは、予測される蛮族の進行方向とは別。

北にあるナナル村だった。


蛮族達が1つ1つの小村を滅ぼしたところで、その先に何がある?

ハーヴェス国の冒険者ギルドのレベルだと、その程度の蛮族達の鎮圧は時間の問題ではないのか。


誘導の可能性。

ナナルの先にあるのは、迷宮チカトロ。建築基盤にアビスコアが使われた未攻略の迷宮。

新たな階層が発見され、迷宮からは数々の魔法の品や危険な魔物が発見されている。

それは魔剣の迷宮に近い。

しかし何故古代人たちは、脅威である奈落の力すら取り入れそのような半永久機関を作ろうとしていたのか。


遺跡や迷宮を根城にする蛮族どもは少なくない。

むしろ蛮族どもが深層にたどり着き、迷宮の構造・技術テクノロジーを解明されたら・・・。


「昼過ぎには、何人か他国から戻ってくるはずよ。アルベール・・・もう少し待てない?」


ドロシーは、この後にアルベールがなんと答えるかを知っているようだった。

確認のために聞いただけのよう。


「ありがとう、ドロシー。だが、まずは俺一人で十分だと思う」


ナナル村にも、村の護衛の冒険者が念のために派遣されているはずだ。

まだ駆け出しの冒険者だ。


「未だに、一人が好きなのね・・・」


「性分だ。でもここギルドのおかげで、仲間と戦うのも悪くないと思えた」


「アルベール・・・」


「仲間が後から来てくれるのを信じているから、行ける。

 それに・・・ナナル村の冒険者たちも仲間だろう?

 万が一の時に、後悔したくないんだ」


「わかったわ」


ドロシーの顔から、不安が消えた。


(幼い頃からのトラウマから1人で行動しがちな自分を・・・)

お前はいつも心配してくれるな。

安心してくれ。


「無理はしないでね」

「ああ、勿論。村人の避難を第一に考えるよ」



そう言ってアルベールは手を振ると、門へ歩き出した。

手配している馬はすでに、門にいるだろう。


(仲間か・・・)

アルベールは歩きながら何度か柄を握り、離す。

それは彼の旅立つ前の癖だった。

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