第4話 ティータイム(3回目のセッションを終えて)

ハーヴェスにある冒険者ギルド『黒い翼と星空』


吟遊詩人が歌い出しそうな不思議な支部名。


支部の隣には、同じ名前の食堂がありギルドマスターの人造人間ルーンフォークドロシーが、オーナーを務めている。


当然、食堂の客は所属する冒険者がメイン。


今日の夕飯は・・・・

里芋とエリンギ入りの鶏レバーパテ(焼きたてのライ麦パンに乗せて食べる)

生ハムとルッコラのニンニクパスタ。

5種類の茸と白菜のコンソメスープ。

人参、ピーマン、キュウリと胡麻のさっぱりヨーグルトサラダ。


「足りない時は、若鶏のモモ肉を香草焼きにして出すわ」


ドロシーは、黒いドレスをまとい各テーブルに挨拶に行く。


冒険の成功を祝い、失敗は慰め、時に去っていく仲間に別れを告げ、誰にも見られないように、そっと涙を流す。


「おかわり!!」


鈴のような心地よい高音。


その後に、再びカチャカチャと食器やスプーンのぶつかる音。


金髪のツインテールより目立つのは、長い両耳。

噛むたびに、耳も上下に揺れている。

エルフの少女が、すごい勢いでスープの具材を食べているところだ。

おかわりしたのは、どうやらパテとパン?。


「アリル司祭・・・そんなに急いで食べると、体に悪いわよ」


「(もぐもぐ)もっともっと食べなきゃね!(もぐもぐ)この前みたいに、倒れて迷惑かけられないも(ごくん)ん!」


アリル司祭は、先日迷宮チカトロから無事に生還したばかりだ。


迷宮内で見つかった新しい階層へ挑み、ギルド内では初のB2Fまで攻略している。


ただし、帰還する直前に迷宮の番人の操る魔道機と戦い、激しい戦いの中で1度生死の境を彷徨ったらしい。


「体調戻ってきたら、また挑むかもだけど(もぐもぐ)修行もしたいから(もぐもぐ)、なんでもお仕事持ってきていいわよ、ドロシー!!(もぐもぐ)」


周りのテーブルの冒険者たちが笑っている。

彼女の雰囲気や、言動はいつの間にか周りを明るくするのだ。


(神殿勤めは窮屈かもだけど。冒険者としては天職だったのかもね)

ドロシーはクスリと笑い、おかわりのパテとパンを手配した。



少し離れた端のカウンターでは、ドワーフのラナリアが家計簿を付けていた。

「うう〜、やっぱ貯金しとこうかな・・・」


健康的に日に焼けた肌。

タンクトップに麻のパンツ、サンダルとまるで少年のような格好なのに、頬杖をついて眉をひそめる顔はなんと愛らしいことか。


「迷宮から沢山の財宝を持ち帰ったばかりというのに、浮かない顔ね。ラナ」


ドロシーは、ラナリアを愛称で呼びながら、隣の席に腰を下ろす。


御義母おかあさまの事?」


彼女は自分の家族を救ってくれた恩人を義母かあさんと呼び、報酬の一部をコツコツと恩返しとして、仕送りしている。


「や、義母かあさんの仕送りはしばらく大丈夫なんだけどさ。自分の装備の話」



グリーンベルト35000ガメル、野伏のセービングマント9000ガメル、ラル=ヴェイネの肩掛け15000ガメル



家計簿の隅に、小さいメモ。


「まあ、高価なものばかり」


「ちょっと手が届きそうだな〜って思うと、欲しくなるじゃん?そうすると、なかなか贅沢できなくて」


と、彼女の席には空になった5枚の皿と、麦酒エール用のジョッキ。

カウンターの奥のバーテンが、苦笑いしながら指で(12杯目です)と合図をしてきた。


「また潜るの?」


「もちろん♪」


彼女は首から下げていた鍵を持って見せた。


迷宮の地下1階から地下2階まですぐに移動できるエレベーター移送の部屋の鍵だ。


迷宮チカトロの新しい階層は、近隣諸国の冒険者ギルドにも活気をもたらした。


未知の体験・現象、見たことのない財宝、そして危険な魔物たち。


冒険者たちは生き生きと、危険な迷宮へ挑んでいく。


しかし、帰らない者も、残念なことに、いる。


先代のギルドマスター(ドロシーの養父)も、元冒険者だった。

養父は病に倒れ、息を引きとった。


最後まで、冒険に出たそうだった。

養父の少し寂しそうな、少年のような表情を思い出すと懐かしい、あの顔が好きだった。


冒険者たちと接していると、養父の面影を見ているようで、嬉しい。


自分は冒険者という人種も、やはり好きなのだ。


「次の冒険の成功を祈って。今夜はご馳走しておくわ。拳士殿」


「本当!?ドロシー!?」


「ええ、その代わりまた無事に戻ってきてね」


「もちろん♪」


その手には、もうジョッキが握られていた。

ドロシーはクスリと笑うと、自分の分の葡萄酒ワインをバーテンに頼む。


アリル司祭は、未だいるだろうか。

今夜はもう少し食堂にいて、みんなと話したい。

彼女はラナリアのジョッキに自分のグラスを軽くぶつけた。


「乾杯」

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