幼馴染の親友が幼馴染の彼女に浮気されたので幼馴染の俺が代わりに仕返しする件

サンボン

第1話 目撃

「はあ……」


 日曜日の深夜、俺は一人、近所の公園のベンチで項垂れていた。


 そもそも、何で今日に限って近道を通って帰ろうだなんて考えたんだよ。

 あの時の俺をぶん殴ってやりたい。

 その所為で、見たくもないモン、見る羽目になった……。


 ◇


「お疲れしたー!」

「おう、おつかれ。寄り道しないで帰るんだぞー」

「うっす」


 喫茶店でのバイトを終え、マスターである従兄の大輔兄に挨拶すると、俺は服を着替えて帰り支度を始める。


「んじゃ、明日も学校終わったらシフト入るんで」

「おう、頼むよ。ああ、それと叔母さんにもよろしく言っといてくれ」

「はいはい。大輔兄もいい加減落ち着けばいいのに」

「よし、来月のバイト代五割カットな」

「ヒドイ」


 などといつもの軽口を吐くと、身支度を整えた俺は、店を出た。


 今日は営業時間終了後に店の棚卸もあったので、既に時間は二十二時を過ぎていた。完全に条例違反だろ。

 ま、親戚の店なんで、そんなものは適用されないけど。ある意味ブラックだな。


「あー……明日も学校だし、早く帰らないと……」


 今から家に帰って風呂入ってレイドイベントやったら、寝るの深夜だぞ。

 いや、ソシャゲなんてやらなければ、今日中には寝られるんだけど。


 よし、少しでも睡眠時間を確保するため、近道して早く帰ろう。それに、早く帰れば余計にレイドイベントできるし。


 ということで、俺は小学校の時によく使っていた抜け道(といっても、近所の空き地を抜けてショートカットするだけなんだけど)を通る。

 ここを抜けると、後は幼馴染である海野皐月の家を越えれば俺の家だ。


 その皐月とは、幼稚園からの付き合いで、しかも、これまでの十年間のうち、八回は同じクラスっていう程の腐れ縁だ。

 で、皐月は容姿端麗、成績優秀、おまけに明るくて性格も良いと三拍子揃っており、常に学校のアイドル的存在だ。


 一方で、俺は容姿普通、成績普通、運動神経普通と、こちらもある意味三拍子揃っていた。スペック的には、信〇の野望の二階堂ってところか。

 にもかかわらず、皐月はこんな俺にも子どもの頃と変わらず、優しく接してくれる


 いや、だからといって、別に俺は陰キャでもなんでもないぞ?

 ちゃんとそれなりに友達いるし、そこそこ空気も読めるし。


 おっと、丁度この角を曲がれば皐月の家だ…………………………………………は?


 ——皐月が、家の前で男と抱き合い、キスをしていた。


 思わず俺は咄嗟に隠れる。

 心臓の鼓動が、せわしなく頭に響く。呼吸も荒い。


 見間違い……な訳ないよ、な。


 もう一度、塀の陰から様子を窺う。

 黒髪ロングのモデル体型、少し垂れ目だがクリっとした大きな目、通る鼻筋とぷっくりとした唇。

 間違いなく皐月だった。

 二人は、まだ抱き合ったままだった。


 そして、夜遅くということもあってか、離れていても二人の話し声が嫌でも聞こえてきた。


「だけど皐月も悪い女だよな。幼馴染の彼氏に内緒で、俺とこうやって会ってるんだからな」

「や、やめてよ……」

「そうは言ってもさ、お前だって愉しんでたじゃんか。あの声、彼氏に聞かせてやったらどんな顔するかな」

「じょ、冗談でも絶対ダメだからね!」

「しかしさあ、その幼馴染、俺と皐月の関係に気付いたりしてないの?」

「うん、それは大丈夫。だって、今日も『具合が悪い』ってRINE送ったら、心配そうにRINE返してきたくらいだから」

「何それ、鈍すぎじゃない?」

「そうなの」


 会話と一緒に、嘲るように笑い合う二人の声が聞こえる。


 何だこれ、目の前がグルグルする。

 気が付けば俺はその場でへたり込み、スマホを取り出していた。

 そして、二人を画面に映すと、パシャリ、とシャッターを押した。


 駄目だ、こんなところに一瞬でもいたくない。

 早く、早くどこかへ……。


 俺は無我夢中で、その場から走って逃げた。


 ◇


 ……どれくらい俺はここにいるだろう。


 公園に来てからずっと、俺は頭を抱えながらベンチの上で蹲る。

 あの時の光景を思い出すだけで吐き気がする。

 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。


 あの皐月が、あんな男と……。


 俺は震える手でスマホを見る。

 このスマホには、皐月がキスをした画像データが収められている。

 だけど、今これを見たら、間違いなく俺は吐いてしまうだろう。


 そして、明日になればまた一週間、学校が始まる。

 そうなれば、嫌でも皐月と顔を合わさなければいけない。


 俺は耐えられるのか?

 何で俺がこんな思いをしなきゃいけないんだ?

 悪いのはアイツだろう?


 皐月への嫌悪感とこの理不尽さに、俺の脳内はそんな自問自答を延々と繰り返す。


 だが、それ以上に。


「はあ……これ、アイツに何て説明しよう……」

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