幸福へのエンドレスマラソン
ちびまるフォイ
幸福のベストな頻度は何m?
通販で買った幸福ランニングマシンがついに到着した。
「ようしこれでじゃんじゃん幸せになるぞ!」
ランニングマシンのスイッチを入れて、
コンベアの上を必死こいて走る。
走った距離が増えるほどに、
画面に表示される「ハッピーポイント」が溜まっていく。
体中汗だくになるほど長距離を走り終えると、
中断ボタンを押してランニングマシンから降りた。
「はぁっ……はぁっ……だいぶ走ったな。
続きはまた明日にしよう……」
翌日も、翌々日も同じだけの長距離を走り倒した。
追加されていくハッピーポイントを見るのが楽しい。
10000ポイント溜まったところで、
幸福放出ボタンを押した。
溜まっていたポイントがみるみる減って0になる。
「なにか変わった……のか?」
10000ポイントぶんの幸福を得たはずだが、
体感的にはなにも変わっていない。
空からお金でも降ってくるかと期待して外に出る。
降ってきたのはお金ではなく商店街のチラシだった。
「……なんだよ。10000ポイントも貯めたのにこれっぽっちかぁ」
チラシを持ちながら商店街に向かう。
「おや、あんた。そのチラシ……」
「え? これがなにか」
「それ、ふくびき券のあるチラシじゃないか。
その下のところをちぎって持ってきてくれ」
チラシの下の方には切り取り線に区切られたふくびきがあった。
ふくびき券を使ってガラガラを回すと、あっさり金色のボールが出てきた。
「大当たり~~! 1等のハワイ旅行~~!!!」
「おおお! やったぁ!!」
10000ポイントぶんの幸福が訪れた。
ハワイから戻ってからもまた幸福を貯める作業を再会した。
「今度はもっと大きな幸せを掴むぞ! うぉぉーー!!」
ドタドタをまた長距離を走り始めた。
10000ポイントで海外旅行の幸福ならもっと貯めれば宝くじも。
さらに貯めればどんな幸福が待っているのか。
毎日、体力が続く限り幸福ランニングマシンの上で過ごす日々が続いた。
ふともものシルエットが変化するほど走り込んだ頃。
急に充実感が失くなってしまった。
「俺なにやってんだろ……。
こんなバカみたいに走り込んで、
でも得られる幸福なんて一瞬で消化されるのに……」
長距離ランニングのおかげで幸福ポイントは貯まってゆく。
10000ポイント以上で何度か幸福放出して、宝くじだって当たった。
でも嬉しいのはほんの一瞬。
わずかな充実のために膨大な時間と体力を消耗している。
「すっごく、効率の悪いことをしている気がする……」
そのあげくに幸福を手に入れるようと努力することで、
自分が不幸になっている気がしてくる。本末転倒。
どうしてこんなことになってしまったのか。
「……きっと、幸福のスパンが長いのがいけないんだ。
何ヶ月も毎日走り込まないと次の幸福は得られない。
こんなんじゃとても幸せになんてなれない!!」
大当たりを半年に1回得られるくらいなら、
小当たりを毎日得られる方がいいんじゃないか。
考え方を切り変えて、今度は短い距離で区切って幸福放出を続けた。
「おっ。アイス当たった」
「ラッキー。今日は店空いてる」
「え? 100人目の客なので代金無料?」
毎日が驚きと小さな幸せに満ちている日々。
大きな一瞬の幸せのために長距離を走り続けるよりも、
小出しの幸せのために短距離を走ったほうがいい。
「俺の選択は正しかった! 幸せは小出しにかぎる!」
記念日を細かく区切りたくなる気持ちが少しわかった。
毎日が記念日ならきっと毎日ハッピーだ。
それも1ヶ月、2ヶ月と続くうちに幸福の味は薄まっていった。
「はいはい。アイス当たりね」
「まあ、行列はできてないだろうね」
「飲食無料ね。はいどうも」
毎日高頻度でちっちゃな幸せが訪れるため、
バリエーションも似通ってくるし慣れてしまう。
そうなると、わざわざ短距離を走り抜いて
たいして嬉しくもない幸福を得るという状況になっていた。
「なんでだ! なんで俺は幸せになれないんだ!!」
長距離を走って大きな幸福を得ても、
短距離を走って小さな幸福を得ても、
心が幸せで満たされることはなかった。
瞬間的な満足感なんて秒で失われてしまう。
どれだけポイントを貯めれば本当の幸福を得られるのか。
・
・
・
数年後、俺は表彰台に上がっていた。
インタビュアーがマイクが向ける。
「短距離と長距離の金メダル獲得おめでとうございます!
そのすさまじい脚力はどうやって手に入れたんですか?」
俺は幸せに満ちた顔で答えた。
「毎日欠かさず走り込んだかいがあります!
本当に幸せです!!!」
今度の幸せはいつまでも続いていた。
幸福ランニングマシンのポイントは使わなくなっていた。
幸福へのエンドレスマラソン ちびまるフォイ @firestorage
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