第28話 華乃とお兄とリコ
「バカじゃん、あんたら。ホントことごとくポン闇」
「華乃……」
リコと抱き合ったまま十数分が経っただろうか。半分以上寝かけていたところをツンケンとした声で起こされた。
扉に寄りかかり、心底呆れたように華乃が俺達を見下ろしている。
そういやこいつにずっと見られてたっぽいんだった……。完っ全に忘れてたわ。
「華乃……あなたも思うところがあるのは仕方ないのかもしれないけれど、わたしはこれからもずっとあなたの家にいるから。お兄と一緒に梨作るから」
「あっそ。勝手にすれば? ……まぁ、それなりに覚悟があるのだけは分かったし……」
不機嫌丸出しの顔に、華乃は何かを悔いるような色を覗かせて、
「それに……一番辛かったのはリコだって、ホントは分かってたはずなのに……」
「そんなことないわ。わたし、お兄と、それにヤエや久吾やあなたと一緒にいられればそれで充分だったもの。これからもそうよ」
「…………っ、強いね、あんたは……。別にあたし神様とか信じてないけどさ、きっとまた生まれ変わって、リコとお兄の子どもとして会いに来てくれるよ……」
「そう……ね……………………は?」「ん?」
「辛かったよね……悲しかったよね……ごめんね、リコ。あたし、あんたに酷いことばっか言って……」
もはや目に涙を浮かべて震えながらの華乃。呆気にとられるしかないリコと俺。
な……何を言ってんだ、さっきからこいつは……?
「待って、華乃。……え? え? あなた何かとんでもない勘違いをしていない……?」
戸惑いながらもリコが上体を起こして華乃に問う。
え、嘘だろ。そういうことなのか? 華乃の奴、まさか……。
「ううん、してないから、勘違いなんて。だって二人ともあんなに勉強してたのに高校行かなかったじゃん。あれはお兄の子どもをリコが、」
「違うわよ!?」「ちげーよ!!」
「へ……?」
「避妊ぐらいちゃんとしていたわよ!! え、ていうか、え? 子どもが出来てわたしが辛い思いをしたって……あなた一体どんな想像を……え? 嘘? 嘘でしょ……? 怖い怖い怖い! え? 怖い怖い怖い怖い怖い!! サイコパスよ! サイコギャル! ポン闇よ!」
「華乃……それはちょっとオレもドン引きっす……」
華乃の後ろから顔を引きつらせた久吾がひょっこりと現れる。ちなみにその背中ではヤエがスヤスヤと寝息を立てている。何だこのスク水女。
「久吾……っ、え? は? いやあんただってそう思ってたっしょ!?」
「思ってないっすよ……てか仮にそうだったとしても、高校行けなくなるもんでもないでしょう……」
「え……じゃ、じゃあ何でお兄とリコは高校に……」
困惑している様子の華乃に疑問を投げかけられて、俺とリコは顔を見合わせる。視線会議である。
――え、華乃の奴、結局知らなかったのか……? なら一生黙ってても……。
――ダメよ。どちらにしろ久吾に聞き出されてしまうし、隠し通すというならヤエに弱みを握られたままになってしまうのよ?
――確かに……。もう正直に話すしかねぇな……。
「いや、あのな華乃……。俺達は確かに高校受験するはずだった……だったんだがな……」「受けなかったのよ、結局……。受けられなかったの、当日になって……」
「え……? え……? なん、で……?」
「まぁ何ていうか……寝坊しちまってな……」「ええ、寝坊して……」
「嘘じゃん、そんなの! お兄が寝坊してたんならリコが起こすはずだし、リコが寝坊してたならお兄が起こせばいいし! てか、そうだ! 十年前、試験の日、お兄は朝早くっから家にいなかったじゃん! 覚えてるから! お守り渡すはずだったのに、あたしが起きた時にはもう出ちゃってて渡せなかったんだもん! てことは、やっぱちゃんと試験受けてんじゃん!」
「いや家は出たんだけどな……それはもうかなり早く……ド深夜に……」「それで……二人でここに忍び込んでいてね? ここで……この倉庫のこのマットの上で寝てしまって……起きた時にはお昼だったのよ……」
「は……はぁ!? 何で!? 何でそんなことになんの!? 何で高校入試の前夜に中学の体育倉庫に来んの!? おかしいじゃんっ、何やって……――――」
そこまで言いかけて華乃も察したようだ。目を剥き、わなわなと震え出し、
「ま、まさか……あんたら一晩中ここで……っ!」
「おう……まぁ……その……してて……」「起きられるわけがないわよね……仮に目が覚めたとしても脳も身体もフラフラで立ち上がることもできなかったわ……」
「――――っ、きっ、き――――っ、きもい!! きもいきもいきもいきもいきもい!! え? うわわわわわああぁぁぁぁぁ……あーーーー!! きもい!! きもきもきもきもきもきもきも!! きもい!! きもいきもいきもいきもいきもい!! きもい!! 何考えてんの!! ありえないっしょ!? なに、一晩中シてて試験受けられなかったって!? 我慢しろよ、一日ぐらい!! きもーーーーーーーっ!! きもいっっっ!!」
「しょおぉぉがないでしょ、気持ち良かったんだからぁぁぁ!! お兄とのえっちに夢中になっちゃってたの!!」
「なに逆ギレしてんの!? きも!! てかアラサーがえっちとか言うな!!」
「アラサーじゃないわよ!! えっちぐらい言うわよ!! えっちえっちえっちえっちえっち!!」
「きもい!! せめてカタカナで言え!! そんでお兄は何ニヤついてんの!! キモすぎる!!」
「いやだって……嬉しいだろ普通に。自分とのえっちが気持ちよかったとか言われたら」
「えっちって言うなぁぁぁぁ!! ホント何なの、あんたら! あたしの思い悩んできた日々を返せ、このポン闇共!! きもいきもいきもいきもいっ!! ポン闇村のポン闇夫婦っっっ!!」
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