高校生による青春恋愛リアリティショーにアラサー幼なじみ男女を現役高校生としてぶち込んでみた

アーブ・ナイガン(訳 能見杉太)

第1話 田舎で恋しちゃお♪

「というわけで、今からお兄とリコちゃんにはこの高校を舞台とした三泊四日の恋愛リアリティショーに参加してもらう」

「というわけで、じゃねーんだよ」「ヤエっていつも説明が足りないわよね」


 当たり前のように企画書を渡してくるヤエに対して、俺もリコも呆れるしかない。


 世間的には春の大型連休初日であるはずの今日、午前九時。俺達は先月廃校になった母校の分校に連れてこられていた。


「そうか、まぁ、そうだな。素人の君達に我々業界人の常識が通じないのも仕方のないことだ。すまなかった。私もこの業界にすっかり染まってしまってな。何てったってこの蜂巣はちす綾恵あやえ、二十六歳にしてディレクターだからな。チーフディレクターだからな。有能ディレクターだからな!」


 蜂巣綾恵――ヤエが長い黒髪をサラッと払って得意げに言う。


「零細制作会社のな」「ネット配信限定番組のでしょう」


 俺の隣でリコも肩をすくめる。

 散々見慣れた黒いミディアムヘアに小さな顔――だからこそその服装が違和感ハンパない。小中と九年間通ったこの教室で、ブレザーの制服を今時の女子高生っぽく着崩したリコが佇んでいる……何だこれ。トリックアート?


「わたしなんかより、あなたの学ラン姿の方が違和感すごいわよ、お兄」「心を読むな心を」

「お、いいぞ二人とも。本番でもそういういつも通りの気安い掛け合いを頼むぞ。自然体でいてくれて構わない。0歳からの幼なじみである君達には、本来の関係通り、『0歳からの幼なじみの二人』として出演してもらうからな。そこを弄ってしまうとやらせになってしまうしな。やらせなんてテレビマンとして一番行ってはならない行為だ」

「……自然体って、お前な……」「大丈夫なの? いやどう考えても大丈夫なわけないわよね。だって『高校を舞台とした恋愛リアリティショー』って……」

「ふふん、安心してくれ。確かにここは元々、小中学校の校舎だ。だが、プロの美術スタッフの手にかかれば、高等学校らしいセットにするのなんて簡単な話だったよ」

「いや、そこじゃねーよ……」「こいつ分かってて言ってるわよね……」


 有能ディレクターとはまともに会話が成立しそうにないで、リコと顔をくっつけ合うようにして企画書に目を通す。


「いや二人分用意しとけよ、無能ディレクター。えーと、なになに……仮タイトル『田舎で恋しちゃお♪』。大自然に囲まれて仲睦まじく育ってきた幼なじみの高校生四人。子どもの頃から変わらぬ気の置けない関係がこのまま続くと思ってた……そこに現れたのは東京からの転校生!? オシャレな王子様とお嬢様に振り回されて私達の関係どうなっちゃうの!? ほのぼのとした田舎の高校で過ごす、ドッキドキの青春ラブストーリー! 三泊四日の共同生活の末、果たして何組のカップルが誕生するのか? 憧れの王子様に迫られて……でもあいつとの子どもの頃の約束はどうするの!? 胸キュンが止まらないキラっキラでアオハルな――」

「もういいわ、お兄、もういい。それ以上読まれても鳥肌が立つだけで、わたし達が知りたかったことは何一つ分からないから。むしろ分からないことが増えたわ。あなたとの子どもの頃の約束ってなに?」

「知らん。たぶんチューチューアイス食う時は必ずポッキンしてシェアするとかそんなんだろ」

「何だい、二人ともそんなに不満そうな顔をして。はぁ……あのな、時代から取り残されている君達は知らないのかもしれないが、今時の高校生の間では流行っているのだよ、こういうのが。胸キュン青春リアリティショーが。そこで単なる二番煎じ・三番煎じにならないところがこの私だよ。君達のような田舎の幼なじみに都会からの転校生をぶち込むというコンセプト、新しいとは思わないかい?」

「ぶち込まれてんのはこっちなんだよ……」

「は? え、何、どうしたんだいお兄? 下ネタ? 唐突だな……良くないぞ、そういうの」

「ちげーよ、あのなぁ……!」「待ってお兄。わたしにも言わせて。わたしも叫びたい」


 リコが肩をプルプルと震わせながら俺の右肩を掴んでくる。俺達は目も合わせずにピッタリと同じタイミングで息を吸い込み、


「高校生達に俺達アラサーがぶち込まれてんだよ!!」「わたし達! 二十五歳! 知ってるわよね、この幼なじみのアホディレクター!!」

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