恋愛常勝マニュアル
@klc1857
第1話
「……んっ、」
ふいに、酔いが覚めたような感覚が脳を襲う。いや、醒めたのは目なのだが。どちらにせよ、脳に血液が巡り、順に思考もクリアになっていく。
「ふぁ…ぁあ」
あくび一つ。上体を起こし伸びを一つ。
二十年余り欠かしたことのない、鉄板のモーニングルーティン(ただの癖)だが、今日はやけに体だ軽く感じられた。
「まだ………おきるかぁ」
アラームが鳴っていない=まだ8.00amではない。いつもなら、ここは二度寝の一手だが、今日はやけに目も冴える。たまには、早起きも悪くないだろう。
「そう、早おきは、三文の、あー?」
得。現日本円に換算して、60円程度である。それだけ聞くと、二度寝した方がいい気がしてくるのは、己の怠惰故だろうか。
「…っし!」
どうにか、早起きが一年間で21900円になることを思い出し起床する。本日の天使と悪魔の争いは、天使の勝ちに終わりそうだ。
「スマホ、スマホ…」
金銭目的の打算で早起きすることが、善い行いなのかはさておき、起きることを決意し、枕元のスマホを探す。が、
「…ねぇな」
ない。スマホが見当たらない。
「ってことは、充電しずに…」
寝たのかよ、最悪。と、次の言葉を紡ぐ前にその異常に気付いた。
太陽系のポスター。宇宙の壁紙。ミニ宇宙着。月を模した照明。宇宙議。極めつけに、くそデカ望遠鏡。
「…どこだ、ここ…」
見慣れたはずの部屋が気づけば様変わり。あっという間に宇宙好きな子供部屋の様相である。ここが太陽系であることは間違えなさそうだが、それ以外は一切分からない。
「…痛てぇ」
超絶古典的方法(お約束)に則り、頬をつねるが、ただ痛いだけ。夢ではないらしい。
「…やばない?」
ご名答。一大事である。
「…ドッキリ?いや、そんな友達…友達…とかいないし」
寂寥。有り体にいって、ボッチ。
交友関係の狭さ、もっとも存在すらしないのだが、そのおかげでドッキリの可能性は否定できた。生涯に一度あるかというボッチの面目躍如である。
「…監禁?いや、にしては拘束具ないし」
流石に、この逃げ放題の子供部屋に手錠や足枷もなしでわざわざ監禁するような悪趣味な誘拐犯はいないか、と思い至る。いや、誘拐犯に悪趣味もなにもないのだが。それはさておき、監禁でないとすると、
「…まさか、ネガティブ・オプションか?」
ネガティブ・オプション。
またの名を、送りつけ商法。文字通り、商法を送りつける悪質商法である。
「昨日、確かなんかで、やけ酒して…」
ありえる。これが一番ありえる。もしそうなら、送られてきた謎の宇宙子供部屋セットをノリノリで飾りつけたことになるが、それはともかく、これが可能性的には一番ありえる。というか、他二つは現実的に考えて論外である。
「こういう時は188か?いや、二週間放置すれば、勝手に処分してよかったよな」
188は消費者相談センターの番号。二週間放置とは、特定商取引法第59条第一項にある、商品の送付から14日を経過した場合の一文からである。
「あー、でもこれポスターとか壁紙って、使用済みになるのか?」
通常の返品同様、使用済みの場合は商品の引取りを断られることが多い。
「まぁ、困ったら188すればいいか」
被害者な訳だし、と言葉を続ける。
因みに、なぜネガティブ・オプションのみ可能性として有り得、そんなことに詳しいのかといえば、それはつまりそういう事である。同じ轍は踏まない。いや、そもそも普通は一度とて踏みそうにないものであるが。
「てか、俺酔っ払って、その場でサインとかしてないよな…?」
いい歳して、いまさら酒で失敗することは流石にないと信じたい。
「いや、てかスマホ、スマホ!もうそろそろ、8時にな、」
そう辺りに視線を投げたときに、ついにソレに気付く。
「かが、み?え、誰ぇええええ?!」
鏡面。そこにいたのは、およそ小学生と思しき少年。
どうやら、宇宙子供部屋セットにはハイパーアンチクエイジングサプリも同梱していたらしい。
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